手話の雑学58

混淆語という概念を手話に応用してみると、優勢言語は日本語、劣勢言語という組み合わせがまず考えられます。そうすると、一般法則によって、語彙は日本語、文法は手話ということになりますが、事情はさらに複雑で、発音は手話側のものが使えません。そこで、発音も日本語の変化したものを用いることになり、文法も語順や主語、目的語といった基本的なものも使えず、表情に依存する相などに限られたものにならざるをえません。通常の混淆語よりも、さらに「たどたどしい」表現になります。それが「聾者の言語」の実態です。このタイプの言語は発音に相当する表現形式として、優勢言語使用者にもわかる身振りに依存せざるを得ないので、「手話と身振りの違いがわからない」「聾者は身振りしかしない」という価値判断をされてしまいます。しかし「身振りにも文法がある」のが事実であり、それが「手話の基本文法」といえます。
ところが、歴史上、日本語と手話の関係が逆転する現象が起こりました。それは手話通訳の発生です。手話通訳は当初は、今ではコーダと呼ばれる二言語話者だけでしたが、次第に日本語話者に学習者が増えていきました。日本語話者の学習者にとって、手話が目標言語であり、優勢言語となります。目標言語が優勢言語になるのは当たり前のことで、日本人にとって、英語は今も優勢言語であり続けています。そして混淆語が「日本英語」であり、日本人は日本英語を「不完全な英語」という認識を持っています。日本英語は語彙は英語ですが、発音は日本語で、文法もほぼ日本語を簡略化したものです。ただ上達にするにつれ、文法はより英語に近づいていきます。こういう、より目標言語に近づいた変種が生まれていくことを「脱ピジン化」と呼んでいます。また混淆語がそのまま、その人々の母語になることもあります。そういうタイプの言語変種を「クリ(レ)オール」と呼んでいます。このクリオールも優勢言語に近づいていく傾向があるので、それを「脱クリオール化」と呼んでいます。この現象は、コーヒーとミルクに例えるとわかりやすいかもしれません。コーヒーとミルクを混ぜると、コーヒーミルクができます。これがピジンの状態で、好みの問題もありますが、コーヒーの1つと思うか、別物と思う人がいるかの差はありますが、ミルクの一種と思う人は少ないと思います。ここでコーヒーをさらに足していけば、どんどんコーヒーになり、ブラックコーヒーとの違いはあるものの、コーヒーとしての違和感はなくなります。これを優劣関係と捉えれば、コーヒーが優勢、ミルクが劣勢です。しかし、牧場の牛乳を売り出したいと考える人は、牛乳にいろいろ足すことで、販路を広げようと考えます。まずはコーヒーを混ぜた「コーヒー牛乳」です。コーヒー牛乳をコーヒーと思う人はまずいないでしょう。実際、牛乳と一緒に売られています。つまり、似たような混ぜ物の文化ですが、視点が変わると優劣関係も価値判断も変わります。ちなみに専門的には「コーヒー牛乳は6コーヒー:4ミルク。ミルクコーヒーは4:6,カフェオレはどちらも半々。」ということだそうです。
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