手話研究の星6 ストーキー(William C. Stokoe) ②


手話で話す女性のイラスト

ストーキーとのインタビューには1時間をいただけました。直接の対談時間に1時間というのは異例だと思います。おかげで、かなり突っ込んだ議論ができました。まず、最初に彼の代表作である「アメリカ手話辞典」(通称DASL)にサインしてもらいました。これは私にとって宝物です。最初に聞いたのは、「なぜ手話研究を始めたのか」という定番の質問です。彼はバグパイプの逸話から始め、英語教師として赴任したこと、手話を学んだこと、そして聾者同士の手話がそれとは違うことなどから、手話が未研究の言語であることを見出した、ということでした。この話は、私にも似たような体験があったので、深く共感できました。そして、聾者から直接、手話を習うようになり、なんとかそれを記述しようと考えました。

未研究の言語に遭遇した場合、今なら録音や録画するところですが、1950年代以前は録音も大変であり、それまでの未知言語といえば、イギリスがアフリカの言語、アメリカはインディアンの言語を記述することが主でした。イギリスはジョーンズなどの音声学者が音声記号を発明し、一方のアメリカではパイクらも音声記号を工夫しました。これらが元となって、現在の国際音声記号International Phonetic Alphabet(IPA)が出来上がりました。今でも英和辞典に載っているあの記号です。

こういう土壌があり、ストーキーはHocketの弟子でしたから、当然、アメリカ構造言語学を学んでいたので、記号による記述を考えました。しかし音声言語なら音声記号が使えますが、手話は文字も記号もありません。独自の記号を工夫せざるをえなかったわけです。日本ではストーキーの功績は「手話を初めて言語と認めた」ことばかりが強調されますが、それは聾運動の立場からであり、聾運動は彼以前からあって、手話がコミュニケーション手段として研究されていました。その方法は単語ごとに英語で見出し作る方法です。

ストーキーの業績は言語学的立場に立てば、記述記号を発明したことにあります。手話単語に英語ラベルをつけることは比較的簡単です。訳語だからです。ところが記述記号となると、その場、その場で作っていくことは不可能で、手話語彙全体を知ってから、共通部分を見出し、それに記号をつけていく作業です。ストーキーは、手話は「手のかたち、手話する位置、手話の動き」という3つのカテゴリに分類できると考えました。この考えは基本的に今も継承されています。その後のアメリカ手話学者は、細分類が必要と考え、手の平の方向、接触といった要素が必要とする人が多いのが現状ですが、定説にはなっていません。こういう「構成素」を確定する場合、「対立」と「最小組」を見つけ出す、というのが構造言語学の基本的作業です。音声言語では「音素」があり、母音と子音の2つのカテゴリがあることは定説になっています。手話言語ではそれが3つのカテゴリに相当すると考えたわけです。音声言語では母音と子音が同時に発音されることはありませんが、手話では3つのカテゴリが同時に発現する、という音声言語にはない特徴がある、というのも発見でした。

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