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手話の雑学107
これまではやや古典的な哲学者で、言語学の主流とは異なる視点を紹介してきました。言語哲学者には、メルロ・ポンティやヴィトゲンシュタインなどを考察する人もいましたが、そうした古典的思考は後に解説するとして、今回は現代流行の量子理論の基礎となったハイゼンベルクの思想を手話分析に応用する、という視点を紹介したいと思います。 量子理論は量子コンピュータ開発という時代の最先端でもありますが、その基盤となる不確・・・
手話の雑学106
手話の移動動詞は DIAGRAM に、授受動詞は DIAGRAM と METAPHOR の中間に、心的状態動詞は METAPHOR に重心を置く形で分布しています。手話動詞の支配関係は次のようになります。 <動詞クラスにおける三分類の支配階層> 移動動詞 : DIAGRAM > IMAGE > METAPHOR授受動詞 : DIAGRAM = METAPHOR > IMAGE心的状態動詞: MET・・・
手話の雑学105
パースはアイコンを image/diagram/metaphor に細分しました。これを手話語彙に適用すると、以下のような層構造が見えてきます。 3.2 パースのアイコン三分類と手話語彙 ・image(形態的類似)手形・外形・動作が対象の物理的特徴を模写する(「鳥、鍵、電話」などの手話表現)。・diagram(構造的類似)対象間の関係・運動・配置のパターンを空間的に写し取る(方向性動詞、CL構造な・・・
手話の雑学104
次のチャールズ・サンダース・パースはアメリカ合衆国の哲学者・論理学者です。19世紀後半の人で、いわゆるアメリカ・プラグマティズムの創始者の一人です。時代も場所も、ランガーやカッシーラより一世代以上前になります。ランガーとカッシーラのような直接の師弟・人的ネットワークは、パースにはありません。カッシーラは、パースの記号論(とくに三項関係やアイコン概念)を、自分の「象徴形式の哲学」に理論的に取り込んだ・・・
手話の雑学103
そこでカッシーラの象徴形式論と聾文化の関係をみてみましょう。 2.カッシーラの象徴形式論と聾文化 カッシーラは神話・宗教・科学・言語など、多様な文化領域を「象徴形式」として捉えました。彼の枠組みを借りれば、手話は視覚身体的モードに基づく独立した象徴形式的言語であり、同時に聾文化の価値体系・認知様式を支える文化的装置として理解できるとします。すなわち手話は、コミュニケーション手段を超えて、視覚中心性・・・
手話の雑学102
次にカッシーラの主張をご紹介しますが、その前に、まずランガーとカッシーラの関係を説明しておきます。スザンヌ・K・ランガー(Susanne K. Langer)とエルンスト・カッシーラ(Ernst Cassirer)の関係は、一言で言えば「師の理論を、弟子が別の領域へ大胆に展開した関係」です。ただし、単なる継承ではなく、かなり創造的なズレがあります。カッシーラは、新カント派(マールブルク学派)に属し・・・
手話の雑学101
デカルトの『方法序説』の中で、手話に関する記述は次のような意味と解釈できます。 ・デカルトは明確に「手による言語表現」を認めていた・言語の本質を「精神の自由な表出」と捉えた・手話が音声と同等の言語機能を持つことを先取りしていた・聾者の言語能力を哲学的に肯定する基盤を作った つまりデカルトは“手話を言語として認める哲学史上の初期の思想家”と見ることができます。こういう指摘はデカルトの研究家で手話に関・・・
手話の雑学100
このシリーズも今年から、嗜好を変えて、ここらで哲学では手話をどのように扱ってきたのか、調べてみます。まずデカルトです。 デカルトは「手話は言語だ」と、すでに気づいていたようです。「我思う、ゆえに我あり」で知られるデカルトは、冷たい合理主義者だと思われがちです。実際、哲学者もそう考える人が多数派です。ところが、彼の代表作『方法序説』の一節を読むと、意外なほど温かい視線が潜んでいます。それは、人は声を・・・
手話の雑学99
これまでの長い議論をまとめると、手話は「身体で考える言語」という比喩ができると思います。ご紹介した手話の語彙例から見えるのは、次の三点です。 ・身体の動き・位置・感覚がそのまま語の意味の土台になる・空間が意味分類・対義・文法関係を組織する・抽象概念は身体経験から導かれるメタファーで体系化される 音声言語で見えにくい「意味の成立プロセス」が、手話では視覚的に「見える」のです。いわば「意味が視覚化され・・・
手話の雑学98
■ 6. 「責任」:肩に荷を負う動き 形:肩の上に手を乗せる/押す/支える動作。 ● 身体性:重荷=責任という心理的圧力が、物理的負荷のイメージで表現されます。● 認知メタファー:責任は荷物である(RESPONSIBILITY IS A LOAD)、引き受ける(take on)=荷を背負うという英語 “shoulder responsibility” や日本語の「肩に負う」と同じメタファーが、手話・・・
手話の雑学97
■ 2. 「わからない(否定/不理解)」:外へ散る・上へ逃げる 形:手が外側・上側に開く動き。肯定形の「わかる」と対照的に、「わからない」は、内部へ収まらない/手からこぼれ落ちる/空間へ散る、という動きになります。 ● 身体性:把握できない=“自分の中”に入らないという感覚に一致。● 空間性:上方向・外方向は、しばしば、否定・欠如・不確かさ、と結びつきます。● 認知メタファー:・理解できないものは・・・
手話の雑学96
■ 3. 認知メタファー(conceptual metaphor):抽象概念が身体と空間を介して形成される 手話語彙の多くは、認知メタファーによって統一的に説明できます。たとえば、「理解する」をはじめとする「認知」領域の語彙には、次のようなメタファーが働いています。 ・知識は物である → 「つかむ」「しまう」「取り込む」・理解は内部にある → 頭の内部・体の内側への動き・アイデアは空間に浮かぶ →・・・
手話の雑学95
手話の語彙や意味の体系は、音声言語の分析枠組みだけでは十分に説明できません。というより、音声言語が“聞こえること”を前提に発達した記号体系であるのに対し、手話は“見ること・身体で感じること”を前提に成立した言語なので、語の作られ方も、意味のまとまり方も、異なるルールで動いています。ここでは、手話語彙が「身体性」「空間性」「認知メタファー」を土台としてどのように構築されているのかを、具体的に説明して・・・
手話の雑学94
手話は構造を可視化された形で保持しているため、進化モデルとの対応関係が明瞭になります。 ■ 4. 手話言語が「完全な自然言語」であること ジェスチャー起源説への最大の反論は、「ジェスチャーでは複雑な文法を作れないのでは」というものです。しかし手話はこの疑念を完全に覆します。手話には、・再帰的構造(入れ子の文)・複文・条件・因果の構文・形態論的派生・語彙の抽象化という人間言語の全構造が備わっています・・・
手話の雑学93
手話言語がジェスチャー起源説を「実証している」と言われる理由は、単なる比喩や類似にとどまりません。手話は、言語の成立に必要なメカニズムを“現在形”で示しており、言語がどのように身体・空間・意図から発生し、どのように文法へと進化するのかを、自然の姿のまま見せてくれる存在です。ここでは、手話がどのようにしてジェスチャー起源説の核心を裏付けているのかを、です・ます調で丁寧に説明します。 ■ 1. 身振り・・・
手話の雑学92
言語の起源をめぐる研究にはさまざまな説がありますが、そのなかでもとくに魅力的なのが「ジェスチャー起源説」です。これは、人類の最初の言語は声ではなく、手や身体の動きによって始まったという考え方です。やや大胆に聞こえるかもしれませんが、霊長類研究から発達心理学、そして現代の手話学まで複数の学問分野がこの説を支える証拠を積み上げています。 まず、霊長類のコミュニケーションを観察すると、意図をもって相手に・・・
手話の雑学91
(1)統語的役割の可視化 日本語は語順や助詞の世界ですが、手話は主語を置いた位置、目的語を置いた位置、動詞の方向性が統語そのものになります。これは統語が抽象化する以前の“直感的な構造化”を強く思わせます。 (2)再帰的構造を空間で表す 「A の考えている B の話を C が聞いた」のような、入れ子構造は手話では空間の視点移動で表現できます。身体がスッと“A側の視点”になったかと思うと、すぐに“Bの・・・
手話の雑学90
言語の進化過程を考えると ・象徴化 → 記号が世界から独立する・身体性 → 記号を運ぶ媒体が発達する・文法 → 記号どうしが無限に組み合わさる これが人間特有の言語能力の発火点と考えられています。手話の「空間文法」は、人間の言語がどのように生まれたかを考えるうえで、とても面白く、手話は“化石のような現代言語”です。化石と言うと古びたものに聞こえますが、実際は進化の痕跡を保持しつつ高度に洗練されたシ・・・
手話の雑学89
2.身体性の言語論 言語は頭の中の霧のような構造ではなく、身体的な動き・知覚・行為の延長線上にあるという考え方です。とくに手話学はこの仮説の最前線に立っています。興味深いのは、手話と音声言語が別々に進化したのではなく、「身体的ジェスチャーから音声と言語的手話が分岐した」という視点です。人間は姿勢・視線・手の形・リズムなどを非常に細かく制御できます。これが「表象のプラットフォーム」として働いたのです・・・
手話の雑学88
では、人間と動物の間で「手話コミュニケーション」は成立するか、という昔からの課題があります。SF映画などでは、当然のように描かれていますが、現実は簡単には結論できません。現実の話として、訓練された犬や馬などは手話風のシグナル体系を習得できます。犬の訓練では、聴覚障害者のためのデフドッグが、人間の手話単語に近いシグナルを理解して動作する例があります。人間が言語指導する側に立ち、犬が記号を学ぶという構・・・

