有標と無標
英語のmarkedという概念は、日本でも普通に使われているのですが、訳語は「印のある、記号のついた、著しい、目立つ、明白な、注意されている、跡をつけて、有標の」となっています。これらの訳を眺めて、どういう概念なのか、なかなかわかりにくいと思います。「注目されている」というのが一番、英語のニュアンスに近いと思っています。たとえば交通の信号機を思い浮かべてください。普通は赤、黄、緑の3色で、どのランプが点灯されているかで、進め、注意、止まれ、という意味を判断します。ここで問題にしたいのは色の違いでなく、点灯しているかどうかがmarkedという概念です。ここで信号をシンプルにして、赤と緑だけにしても、ほぼ同じ機能があります。歩行者用信号はそうなっています。最近は緑が点滅することで、黄信号の意味を伝えています。さらにシンプルにして、赤だけでも機能します。赤が点灯していれば停止、赤が消灯していれば進行、という方式です。見にくいという欠点はありますが、機能は残っています。このように、点灯していることで機能しているのがmarkedということです。有標は直訳です。
マークは記号という意味の他に、動詞として「マークする」という使い方もします。英語では名詞と動詞のどちらもmarkで同形です。こういう名動同形語が英語にはたくさんあって、日本人が英語で悩むところです。動詞のmarkの反意語がunmarkです。その過去分詞形がunmarkedです。この訳語は「印のついてない、気づかれていない、人目につかない、無標の」となるのですが、この概念は理解しづらいです。上記markの「著しい、目立つ、明白な、注意されている、跡をつけて」の反意語が一語ではなかなか思い浮かばないのではないでしょうか。一番単純な訳語は「注目されていない」で、「無意識な」が近いと思われます。英語の例を見てみましょう。覆面パトカーan unmarked police carが示すように、誰もが気づかない、というニュアンスです。
この有標と無標という概念は専門用語では対立的に用いられます。気が付いている、というのは人間の行動であり、機械は気が付く、気が付かない、ということはほとんどありません。データとしてはすべて採り入れています。それを認識としてデータ化するかどうかは利用する人間が決めています。この関係は耳と脳の関係に似ているかもしれません。「耳で聞いている」と思いがちですが、聴覚器官はすべての音を認識していますが、音として認知するのは脳の仕事です。つまり脳がmarkしているわけです。たとえば「指差し」という行動をする場合、ひとさし指が出ていることは意識されていますが、他の指が曲がっていることは意識されません。ひとさし指がmarkされ、他の指はunmarkです。そのため、少しくらい小指が出ていようが、時には親指の腹がどこに触れているか、など意識しません。しかし、この時の手の形をコンピュータで画像させようとすると、この小さな違いが問題になるのです。専門用語では有標markedと無標unmarkedとして機械に覚えさせる必要があります。機械と人間の認識の基本的な違いです。
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