言語技能測定技術と言語教育理論⑩ 指文字とは何か
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「指文字は簡単」という「神話」ないし「都市伝説」があります。これは日本の指文字がモーラという音節に対応していて、ひらかな、やカタカナという文字もモーラに対応していることに関係があります。指文字は「文字を手で表現する方法」なので、欧米などでは、アルファベットに対応し、日本では仮名に対応するシステムです。アルファベットの場合、文字が26しかなくて覚えやすい代わり、組み合わせである綴りがあって、けっこう面倒です。英語の時間、単語テストで綴りの間違いで減点され、英語が嫌いになった人も多いでしょう。日本語の場合でも、間違いやすい文字もあります。「あ」と「わ」や「ね」や「ぬ」が似ていて、外国人の学習者は悩むようです。そして漢字という難関があります。言語学習という点では、日本語は難関の言語です。しかし、これは書き言葉の話です。最近、日本語の上手な外国人を見かけますが、それは話し言葉であって、日本語の話し言葉はそれほど難解ということはないようです。母音の数も少なく、子音の数も少ないです。五十音といえども、母音と子音の組み合わせですから、どの言語も似たようなものがあり、転用はそれほど苦労しません。むしろ日本人には外国語の母音や子音だけを発音することの方がむずかしいです。日本語学習では、五十音という清音の他に濁音があり、促音、撥音、拗音があって、一見複雑そうに見えますが、促音が撥音しにくい、撥音の単独撥音がむずかしい、ことを除けば、後はどの言語にもある組み合わせの発音なので、それほど困難はないようです。また、前述のチャンクによる学習法なら、多少のエラーがあっても伝わります。問題は聴覚障害者とくに聾者の場合、失聴年齢が低いと、この音のしくみ、つまり音韻を学習機会がなく、書き言葉しか学習できないことが言語学習をむずかしくしています。指文字は日本語の音韻を表示するので、日本語の話し言葉を習得した人にとっては「簡単」に思えるのです。しかし、話し言葉をもたない人には読み取りがむずかしいのです。仮名だけで日本語を書く方法として、昔は電報文というのがありました。また手旗信号やモールス信号や基本点字も仮名対応です。基本的に話し言葉と同じ内容であれば、こうした「コード」によるやりとり、も少しの訓練で対応できます。その意味では、指文字もコードと見ることができます。コードによる伝達活動をしたことのある人なら、わかると思いますが、実際の話し言葉の速度についていくことは非常な困難があります。現在、話し言葉を即時に文字化できるシステムができていますが、それでも時間差があります。理論的には、この文字の代わりに指文字で示すことは可能です。しかしそれを読み取れる人は非常に少ないといえます。文字の読み取りも母語話者には簡単ですが、非母語話者にはむずかしいでしょう。カラオケで英語の歌詞が読み取れないのと同じ原理です。つまり、指文字は発信側つまり聴者には簡単でも、受信者は聴者でもむずかしく、聾者にはさらにむずかしいものなのです。発信訓練だけでなく、受信訓練がかなり必要なシステムです。
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