手話の雑学43


手話で話す女性のイラスト

言語の構造である文法を研究するには、まず枠組みの設定が重要です。この言語研究の枠組みは歴史的に変化してきましたし、今もいろいろな枠組みがあります。言語学者はどの枠組みを利用するかを決めなくてはなりません。現状になければ、自分で枠組みを作ることから始めなくてはならないのです。どういう枠組みが自分に適しているかを考える材料として、言語研究の歴史を知ることが基本なので、言語学に限らず、あらゆる研究分野で、研究史を学ぶことが重要なのです。若いうちは早く現在を知りたくて、研究史などを学ぶのはメンドクサイものですが、経験を経て一人前の研究者になると、改めて研究史の必要に目覚めることになります。わかりやすい例を示すと、「人類で初めて」というためには、これまでの記録を全部知らないと断定できません。いつ、誰が、同じことをやったかわからないからです。そこで文法を考えるために、回り道ですが、まず文法研究の歴史を学習してみます。メンドクサイ方は飛ばしてもいいです。

文法を英語でgrammarといいます、グラマーというと、肉感的な女性を思い浮かべる人の方が多いと思いますが、実は語源的にglamourはgrammarと深い関係があります。Glamourは英語では女性の魅力とは限りません。18世紀のヨーロッパでは、文法を学ぶ能力が「魅力」を示す能力と見なされ、これが語源に影響を与えたとされています。具体的には、文法を解する能力は「魔法」や「魅了」を持つとされ、これがglamourとの関連性を生み出しました。それだけ文法理解はむずかしいということでもあったわけです。文法が本格的に研究された最初は聖書翻訳であることは以前にお話ししました。起点言語であるヘブライ語から、ギリシア語に訳したり、ラテン語に訳すには、語彙の研究と文法の研究が不可欠でした。翻訳技術としては、直訳と意訳がありますが、聖書のことばは神様のことばですから、正確に伝える必要があります。直訳は起点言語には近いのですが、わかりにくく、意訳はわかりやすいのですが、起点言語からは遠くなります。そのいい塩梅(あんばい)がなかなかむずかしいのです。どうしても翻訳者の個人差がでてきます。そこで、できるだけ個人差がない「標準的な文法」が研究されました。理想的には「誰がやっても同じになるような基準」としての文法です。このタイプの文法を「標準文法prescriptive grammar」といいます。この標準というのは、本来、法則性のある共通部分を抜き出して整理したものですが、翻訳家にとっては、それに従うことが求められるため、それが規則のような縛りのあるものになりました。学校で教えられる文法はその標準文法の流れを汲むものですから、みんな「覚えて守るもの」という意識になってしまいます。いわば交通ルールのような感じになります。それで「文法違反」は交通違反のような感覚が生まれてしまいます。しかし標準文法は完全な体系ではないし、文法そのものが時代によって変化していきますから、学習者は混乱してしまいます。「覚えなくてはならない」「よくわからない」から嫌いという人が多いのも当然です。

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