手話の雑学45

このように文法研究にも長い歴史があり、その時代の要請に従って、変遷がありました。ある言語の文法を研究するに当たって、いきなり現代の手法を応用することは困難です。なぜなら、元になる資料(データ)ないからです。そこでまずデータ収集から始め、古典的な文法体系の思想を応用しつつ、順番に手順を踏んでいかねばなりません。古典である、「主語、述語、名詞、動詞」といった基本概念が手話ではどうなっているのかを調べることから、始めなくてはなりません。
現在、日本手話文法について書いた本が少しだけありますが、こうした古典的な説明をしているものはないと思います。手話文法はNMM(非手指標識)である表情が表すなどという人はいますが、主語や述語、名詞や動詞を表情でどう表しているのか説明している人はいません。そもそも文法とは何か、ということがわかっていないのかもしれません。このコラムでは詳しくは解説しませんが、日本手話にも主語、述語、名詞、動詞に該当する要素があります。しかし、それは英語や日本語とも違います。そもそも、これらの概念はヨーロッパの言語に対する説明であり、たとえば日本語にはそのまま適用できません。言語ごとに文法が違うことは常識です。それは日本で英文法を学習する時に嫌と言うほど実感します。
まず、主語について考えてみます。簡単な例文ですが、「私は手話が好きです」を英語で言えばI like sign language.なのは誰でもわかるでしょう。この時、英語なら主語がI, 述語がlike sign languageで、動詞はlike、名詞はsign languageであることは大抵の人が分析できます。では日本語はどうでしょうか。主語は私は、述語は手話が好きです、動詞は好き、名詞が手話となる、でしょうか。英語の方はすべて片付いているのに、日本語の方は「です」が残ってしまいます。さらに細かく分析すると、主語というのは「語」と限定しています。実は英語の方は主語はsubjectといい、「語」つまりwordという概念はくっついていないのです。これは日本の英文法はすべて訳語で説明していますから、訳語の段階で意訳しており、原語とのずれが起きています。語は日本でいう「単語」のことですから、簡単にいえば辞書の見出しのようなものです。実は現代の日本文法では、主語、述語といわず、主部、述部と呼んでいます。語より大きな部という単位を使っています。「私は」が主部、「手話が好きです」が述部というわけです。これでようやく英語などの文法に近づきます。そして主部は「私」という語と「は」という語からできており、私は名詞、「は」は助詞という説明をしています。この詞というのは語の文法的な機能という定義になっています。そろそろ頭が痛くなりませんか?
まず理解していただきたいのは、英文法の概念を直接日本語に適用しようとすると、うまくいかないことがたくさんある、ということです。少しだけむずかしい表現をすると、「枠組み」が違うのです。英文法には英文法の文法研究の枠組みがあり、日本文法には日本文法の枠組みがあるということで、枠組みを無理やり一緒にしようとすると、いろいろ矛盾が出てくるということです。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
27 | 28 | 29 | 30 | 31 |