手話の雑学49


手話で話す女性のイラスト

ここで日本語文法の独自性について、知っておいてください。これまでも日本語の特殊性についていろいろ解説してきましたが、今回は日本文化にも関わる特殊な文法です。日本語の受け身には独特の用法があります。通称「被害の受け身」といいますが、「雨に降られる」のような被害がある場合に受身形が用いられます。さらに特殊な表現として「昨年、父に死なれた」のような受け身形があります。「死ぬ」は自動詞なので、英語感覚からすると、受け身は他動詞しか存在しないため、不思議な感覚がします。「雨が降る」も自動詞なので、英語では受け身は存在しません。日本語では、英語の受動態とは異なり、意味的に自分に何か被害的なことがあると受け身の助動詞が使えます。このため、日本語話者は自動詞と他動詞の区別が曖昧で、ほとんど意識しません。たとえば「走る」は文法的には自動詞ですが、「走られる」と言うと普通は意味不明ですが、何となく「わかる感じがする」と思います。「見る」は「よく見られたい」のように、受け身形は普通にあります。英語だとlookは自動詞なので、look atのように前置詞を付け加えて「他動詞化」します。同じように「聞く」はlisten とlisten toのようになります。こういう例が多いので、英語学習の時に、不思議な感じがしませんでしたか?ちなみに日本語では同じ「見る、聞く」は英語ではsee, hearという別表現があり、使い分けに悩みませんでしたか?そしてlisteningとhearingの違いは日本語になると、リスニング、ヒアリングと同じ意味になってしまいます。これは英文法をより深く知ると簡単に区別できます。英語のlistenは受動態になりませんが、hearは受動態になります。これが英語の自動詞と他動詞の意味の違いです。

では日本手話ではどうかというと、英語の感覚に近いのです。日本手話の「死ぬ」や「雨が降る」の運動方向を変えても、受け身にはなりません。「死ぬ」の運動方向を逆にすると「生き返る」ようなニュアンスになるかもしれませんが、「死なれる」という意味にはなりません。つまり反語になるだけです。この言語現象は日本語を日本手話に直訳すると誤解の原因になります。たとえば「説明してください」などは要注意です。日本手話では「説明される、お願い」となります。そして、さらにややこしいのは、日本手話では「貸す」と「借りる」が逆方向です。これは「借りる」を「貸される」と理解するには無理があります。要するに、日本手話では、運動方向を逆転すると意味が逆になる、という法則があります。そして、日本語や英語には配列順序を変えると逆の意味になることはありません。「いえ(家)」を逆にして「えい」にしたら、意味が変わるだけで、逆の意味にはなりません。日本語や英語のような「音声言語では、配列順序を変えることで別の語を作りだすしくみ」があります。つまり前後関係が重要です。それは語形成の段階だけでなく、語順にも影響していて、配列順序が文法の大きな要素になっていることを理解してください。これは音声言語では「語順」が大きな意味をもつことと関係しています。

2025年11月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

コメントを残す