手話の雑学55


手話で話す女性のイラスト

日本語の「名前」は1語ですが、日本手話の「名前」は「掌」と「親指」に分解でき、語源では「ハンカチに書いた名前」というのが定説です。つまり「ハンカチ」と「そこに文字がある」という2つの要素からできていることになります。「胸に名札をつける」という習慣から、同じ日本語に対し、関西方言では、「胸の名札」を語源とする表現があります。これも「胸」と「丸い名札」と意味的に分解できます。日本手話の「鼻」は「指差し」と「位置」の組み合わせで、身体部位という基本語彙の多くが、この指差しと場所の合成でできています。身体部位を表す語彙は基本語彙の中心であり、この語彙が似ているか似ていないかで、言語間の親縁性を測り、言語の進化を探るという研究方法があります。言語年代学といい、これにより、歴史的に同系とみなされる言語の集まりを「語族」と呼んでいます。いわば「言語の親戚関係」のことです。その研究の結果、ヨーロッパの言語のほとんどとインドの言語が親戚であることがわかり、それを印欧語族と呼んでいます。その大本はインドの古代語で、それが印欧語族の先祖、つまり祖語という学説になっています。この考えには、「言語の元は1つ」という思想があり、その大本は神のことば、というキリスト教などの宗教思想に基づいています。この言語の1元説が言語普遍論の根拠にもなっています。これは信仰であり、科学的根拠はありません。むしろ世界の言語を研究すると、違っていることの方が多く、大本が1つとは思えないので、言語の起源はいろいろ分かれている、と考える思想もあります。それを言語相対説といい、昔から言語普遍論と言語相対論は言語学者の間で対立しており、今も続いています。この思想の違いは、人間の起源を研究する場合にも影響しており、人類は類人猿から一方向に進化してきた、という説もあれば、別々の進化をしてきた、という説もあります。詳しくは人類進化について勉強してみてください。最近は、起源は複数という考えが多いようです。これは白人、黒人などの人種の起源とも絡み、複雑な様相を示しています。

以前は音声言語だけを研究対象としてきたので、語族や祖語などが大きな研究テーマでしたが、手話を言語として考えるようになると、言語普遍論と言語相対論では、方法論がまったく異なってきます。言語普遍論であれば、音声言語と同じ枠組みで研究できるので、音声言語の文法論が適用できる、と考えることになります。一方の言語相対論では、音声言語の枠組みで研究していけば、違いがわかるようになる、という考えと、まったく別の枠組みでないと研究できない、と考える人がいます。手話学の鼻祖(創始者)であるアメリカのウイリアム・ストーキーは別の枠組みを創造した研究者です。しかし、その後のアメリカ手話学者のほとんどは言語普遍論の立場の人が多数であり、日本にはそういう学風が日本に持ち込まれたため、日本手話はアメリカ手話学で研究できる、とか、英語の文法論が応用できる、と思う人が多いようです。

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