手話の雑学74

ここでさらに深い議論になりますが、図像性(iconicity)と音象徴(sound symbolism)の違いを明確にしておきましょう。「記号のかたち」と「意味」との距離が近い現象ですが、それぞれ別のメディアに根ざしながら、共通する働きと、まったく異なる力学の両方を持っています。
1. メディアの違い:視覚 vs. 聴覚
図像性は視覚の領域に根ざします。手の形、動き、身体の配置、空間の使い方など、いずれも「見える形」が直接的に意味を映し取ります。
音象徴は聴覚に根ざし、音の響きが意味を呼び起こします。/k/ が“硬さ”、/m/ が“やわらかさ”、/p/ が“軽い破裂”といった感覚の連想です。視覚は空間構造を写し取るのが得意で、聴覚は時間的な変化やリズムを写し取ります。メディアの性質が、そのまま象徴性の得意分野を決めているのが面白いところです。
2. 透明度:類似の強さ
図像性は“見ればすぐ分かるケースが多いです。手話の「走る」(人型を表す手の動き)、「落ちる」(手が下へスッと落ちる)などが典型で、音声言語より直観的なことが多いのです。
音象徴は“聞けばなんとなく分かる”レベルが中心です。「ゴロゴロ」「チクッ」「ふわふわ」などは比較的わかりやすいですが、必ずしも図像性ほどの即時性はありません。
透明度で比べると、図像性 > 音象徴というのが一般的な評価です。
3. 規則性と束縛:どこまで自由にできるか
手話の図像性は、視覚表現としての制約が少なく、空間の三次元性をフルに使えるため、象徴の自由度が高い。分類詞(classifier)や描写的動作(depictive constructions)などは、ミニチュアの世界を作る”ことができます。
音象徴は、音節構造や音素のセットという制約があり、自由度は図像性ほど大きくありません。
それでも日本語は擬音語・擬態語の創造性が高く、音象徴的な語形操作(伸び、反復、濁音化など)で意味を調整する余地があります。空間的な自由度は図像性が圧倒的で、時間的・リズム的な自由度:音象徴が強いというふうに、得意分野が分かれます。
4. 文法への統合:両者の不思議な類似
手話の図像性は、単なる“絵”ではなく、きちんと文法に編み込まれています。分類詞構文、動詞の空間的活用、構文の役割に応じた動作変形など、象徴性が文法の部品になっています。
音象徴もまた、日本語では文法と密接につながります。「〜と」「〜する」「〜になる」と容易に接続し、述語として働いたり、状態表現になったりします。視覚と音声という違いはあっても、両者は象徴性に文法的地位を与えているという点で強い共通性を持つ言語現象です。
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