手話の雑学77


手話で話す女性のイラスト

もうひとつ重要なポイントなのが、視覚と聴覚というモーダルな違いを「言語」として束ねる脳の柔軟性の問題です。脳科学でいちばん驚かれるのは、聴覚を失った人が手話を使うと、視覚情報であっても言語野が活性化するという事実です。言語は入力モード(視覚・聴覚)に依存していないこともあり、むしろ、象徴性で意味がうまく立ち上がるなら、脳はそのルートを積極的に使う、ということです。これは、オノマトペが音象徴で意味を近くする働きと、手話が図像性で意味を近くする働きの心理的効果が似ている理由でもあります。

まとめるなら、脳内での局在はそれぞれ違いますが、象徴性の仕組みは脳の共通原理に従っていて、視覚と聴覚は別ルートを使いますが、どちらも 「感覚の特徴を、そのまま意味に接続しようとする脳の傾向」 に支えられているということになります。

・視覚ルート → 空間的・立体的・形態的象徴(図像性)
・聴覚ルート → 時間的・リズム的・質感的象徴(音象徴)

異なる局在を持ちながら、最後は言語ネットワークで合流する、その二重構造こそ、手話と言語音の象徴性が並列で比較できる理由になります。ここからさらに「神経基盤としての 図の像性の普遍性」や「音象徴と手話形態素の相互比較」という認知言語学と脳科学の問題に広がります。

音象徴と手話の形態素の図像性を比べると、音声言語と手話言語という別世界のように見えるのに、深いところでは「記号をどう作るか」という同じ問題に取り組んでいます。両者の比較は、感覚処理システムの違いと、言語の普遍的な仕組みの交差点を照らしてくれます。ここでは、手話学でいう「手話形態素の構成素」つまり動素(手形・動き・位置・方向・非手指要素)」と、音声言語の「音象徴的形態素(音素の持つ象徴性・擬音語・擬態語の語形操作)」を対照させる形です。音象徴と動素は異なるモダリティで作動しながら、機能的には次の点で驚くほど似ています。

1.最小単位レベルで象徴性が働く(音素/手形・動き)
2.形態音韻の操作で意味ニュアンスを調整できる
3.状態記述・質感表現に強い(擬態語/描写構文)
4.抽象語彙の基盤として働く
5.習得段階で役に立つ“感覚的手がかり”を提供する

違いは、音象徴が「時間軸に沿った連続音」であるのに対し、手話の動素が「空間・形態・同時性」を利用する点で、それぞれのモーダル特性(聴覚か視覚か)が象徴性の得意分野を決めています。これまで音象徴と手話の象徴性を並べて比較されることは、ほとんどなかったのですが、言語の象徴機能なので、似ているのは当然のことで、それでいて、違う点もあるのは、利用するモードが違うから、という、きわめて単純な結論になります。

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