手話の雑学78

ここで手話と音声言語の構成素を改めて考えます。
1. 最小単位レベル:音素 vs. 手話の構成素(手形・位置・動作)
音象徴が働く最小の場所は音素です。/p/ が軽い破裂、/g/ が重い摩擦”、/i/ が小ささ、/a/ が広がりなど、音の物理的特徴が何らかの意味連想と結びついています。手話の形態素にも象徴性の偏りがあり、手形の「開く・閉じる」、動きの「しなる・跳ねる」、位置の「上・下・身体への近さ」などが意味連想を誘発します。 たとえば、以下のような例をすでに指摘してきました。
手のひら … 表面、大きさ、広がり
握り拳 … 力、固さ、密度
上部空間 … 高さ、勢い、良性
下部空間 … 重さ、悪性、落下
前方向への動き … 未来・進行 (時間線)
後方向 … 過去・消失(時間線)
音素にも「軽い → 小さい」「濁音 → 重い」といった象徴性がありますが、手話は空間をそのまま使えるため、その象徴性がより構造的に働くのが特徴です。
2. 組み立て方式の相違(音声の線形性 vs. 手話の多次元性)
音象徴は音なので配列が線形的です。音は時間に沿って順番に流れるしかないため、象徴性もリズム・長さ・反復といった時間的パラメータによって強められます。それに対し手話の動素は多次元です。手形・位置・動き・方向・表情が同時に提示されます。そのため手話の図像性は、手の形(handshape)動きのスケール(movement size)、位置の距離(location)、時間的変化(speed, repetition)、感情表現(facial expression)などが複数チャンネルで同時に構築されます。たとえるなら、音象徴は「細い管を流れる水」のように一列処理ですが、手話は「複数の管で同時に流れる水」のような複合処理をしています。この構造差が、手話に比喩・空間描写・分類詞(CL)構文が発達しやすい理由になります。
3. 形態変化(morphophonology)という語形操作の役割の類似
オノマトペがニュアンスを変える際の操作の例として、反復(ドンドン → ドーン)、伸長(ふわ → ふわぁ)、濁音化(キラ → ギラ)、リズム変更(パタパタ → パッパ)など。これらはオノマトによる意味調整です。手話でも同様に、形態音韻的操作が意味を変えます。反復(動作の回数を増やす → 強度・継続)、振幅の大小(movement size)、速度の変化(速い → 緊張、遅い → 無気力)、方向転換(主語内容と目的語内容を変える)、手形の縮小・誇張(小さい/大きいニュアンス)などで、手話で動きを強めるのは、機能的に同じといえます。
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