世界の降誕祭


十三夜の月のイラスト

日本のクリスマスといえば、チキンと苺のケーキを思い浮かべる方が多いでしょう。宗教的な行事というより、年末の華やかなイベントとして定着したこの風景は、世界的に見るとかなり独特です。本来クリスマスは、イエス・キリストの誕生を祝う「降誕祭」であり、その祝い方は国や地域の歴史、宗教観、生活文化によって大きく異なります。

アメリカではローストターキーが象徴的な料理です。感謝祭と同様、大きな七面鳥を囲み、家族や親しい人々が集うスタイルが定着しています。大統領が「幸運な七面鳥」として放してやるのも風物です。一方、イギリスの伝統的な祝祭料理はローストビーフです。牛肉を焼き上げるこの料理は、日曜日の正餐や祝日の中心に据えられてきました。現在ではターキーも広く食べられていますが、それは比較的近代になってから普及したものであり、イギリス文化を象徴する肉料理としてのローストビーフの位置づけは今なお特別なものです。日本でもおなじみになりました。

ドイツやオーストリアでは、甘いシュトーレンやスパイスの効いた焼き菓子であるレーブクーヘンが重要な役割を果たします。これらはクリスマス当日だけでなく、待降節と呼ばれる期間に少しずつ食べ進めるもので、「待つ時間」そのものを祝う文化を反映しています。イタリアではパネットーネやパンドーロといった発酵菓子が中心で、甘さと香りが長い余韻を残します。いずれの国でも共通しているのは、手間と時間をかけた料理を家族で分かち合うことが、降誕祭の核心にある点です。フランスではビュッシュ・ド・ノエルの他、フォワグラ、生牡蠣、シャポン(去勢鶏)のローストなど、普段にはないご馳走が食卓に並びます。意外に知られていませんね。

象徴の面でも、日本では赤い服のサンタクロースが主役ですが、北欧諸国では様子が異なります。デンマークやノルウェーでは、街や家庭を彩るのはサンタよりも「ハート」のモチーフです。紙や藁で作られたハート型の飾りは、愛情や家庭の温もりを象徴しています。これらは信仰の教義を直接表すものではなく、冬を共に越える人々の結びつきを静かに示す装置なのです。北欧のサンタ的存在は、ニッセと呼ばれる大勢の小人で、自然や家を見守る存在として描かれています。フィンランドのヨウルプッキは森や寒さと結びつき、共同体の習慣の一部として子どもたちに語られます。そこには商業的な高揚よりも、長い冬を生き抜くための連帯感が色濃く残っています。そこには冬至祭とのつながりも見られます。こうして見ていくと、日本のクリスマスは、海外とくにアメリカから入ってきた象徴を独自に再編集した文化だといえるでしょう。チキン、苺、サンタという分かりやすい要素を組み合わせ、宗教色を薄めることで、季節行事として完成させました。一方、欧米や北欧の降誕祭は、料理や装飾の一つひとつに、土地の記憶と時間の積層が刻み込まれています。祝祭は信仰の深さだけで形づくられるものではなく、食べ物や象徴、誰と時間を共有するのかが重要です。その違いが世界のクリスマスを多様で豊かなものにしています。

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