手話の雑学97

■ 2. 「わからない(否定/不理解)」:外へ散る・上へ逃げる
形:手が外側・上側に開く動き。
肯定形の「わかる」と対照的に、「わからない」は、内部へ収まらない/手からこぼれ落ちる/空間へ散る、という動きになります。
● 身体性:把握できない=“自分の中”に入らないという感覚に一致。
● 空間性:上方向・外方向は、しばしば、否定・欠如・不確かさ、と結びつきます。
● 認知メタファー:・理解できないものは外へ逃げる、・記憶・理解の欠如は上方向の空間へ
これは高嶋・有光(2025)が詳しく分析した領域で、手話語彙の体系的な「方向意味論」がよくわかる例です。
■ 3. 「ある/ない(存在)」:下方向=安定、上方向=欠如
「ある」:手が下方向へ接触または安定的に置かれる
「ない」:手が上・外へ軽く払う動き
存在の肯定/否定が上下方向と深く結びつく日本手話独自のパターンです。
● 身体性:物が“ある”とは、私たちの身体感覚では 重さ・安定・触れられる場所にあること。したがって手話でも下方向・安定の動作で表されます。
● 空間性:下方向=安定・内在、上方向=非存在・消失という空間メタファーが語彙の対義構造を形成します。
■ 4. 「考える」:手が頭の位置で軽く円運動
形:こめかみ付近で手を小さく回す、あるいは頭を指す動作。
● 身体性:「思考は頭の中の活動」という身体前提に直結。
● 空間性:回転運動は 思考の継続性 を示し、空間での軌跡が“過程”として視覚化されます。
● 認知メタファー:思考は内部での運動である、考えることは物を操作すること
■ 5. 「信じる」:胸の中心に当てる動作
形:胸の中央に手を軽く当てる。
● 身体性:“信じる”という抽象概念を身体部位で定位する例。胸は「感情」「確信」「心的状態」の所在と文化的に関連。
● 認知メタファー:・信念は心臓(胸部)に宿る、・確信は内面の中心に置かれる
音声言語では見えにくい、身体領域による意味の定位が表れている良例です。
空間性のメタファーはとくに考えられませんが、胸の中央という位置が、身体性と重なっているので、空間から省かれています。
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