手話の雑学112 手話と宗教


手話で話す女性のイラスト

手話と宗教は一見、何の関わりもないように思えるかもしれませんが、宗教が言語や文化と深い関わりがある以上、手話との関わりも深いものがあります。たとえば、手話による聾教育の創始者といわれるフランスのド・レペがカトリックの神父であったことから見てもわかります。そしてド・レペが採用した指文字のルーツは、スペインの修道士であったことも偶然ではありません。そもそも修道士がなぜ指文字を利用したか、というのは、カトリックのある宗派に沈黙の行というのがあり、言葉によるコミュニケーションが使えず、身振りによる伝達が行われていたのですが、それが指文字に発達していったと考えられています。詳しくは「指文字の研究」をご覧ください。また手話が伝承されてきた、という歴史もあり、フランスのシトー派が知られていますが、日本でも北海道のバターキャラメルで有名なトラピスト派にも伝承されています。これらは手話といっても、聾者ではなく健聴者同士の手話です。

手話が「聾者の言語」という概念は比較的新しく、アメリカの手話学が広がって以来の現象です。アメリカのような多民族社会では、民族としてのアイデンティティを何に求めるかというと、血縁は混血が普通なので、血縁を指標にはできません。肌の色で区別することは今でも行われていますが、それも大雑把な分類であり、同じ白人や黒人でも民族が多数あります。一番はっきりした区別は言語です。言語は国語としては英語なのですが、標準英語というのは抽象的な概念に過ぎず、日本人が考えるイギリス系の英語はほぼなくなっており、現在ではイギリス英語とアメリカ英語にはかなりの距離ができています。そのアメリカ英語はアングロサクソン系の英語を話す人の人口は激減し、スペイン語との混淆であるヒスパニック英語や、アフリカ系と総称される黒人の英語、ネイティブ・アメリカンと称される先住民の英語、そして中国系、日本系、韓国系などの総称であるアジア英語もあります。そして当然ながら文化も混淆し、それぞれの母国から持ち込まれた文化と融合した文化が広がっていて、多文化社会となっています。そして、その文化を形成している日常生活は宗教との関わりが深いので、多宗教社会でもあります。その結果、言語と文化と宗教を指標とした小社会が形成されており、それがモザイクのように固まっているのがアメリカ社会です。ところがここでいう言語というのはすべて音声言語です。すると聾者の手話が言語だとすると、どういうアイデンティティになるか、という議論になります。言語が違うのだから「一種の民族」という思想が出てきて、「聾者は民族」という思想が生まれました。これが今でいう「聾民族主義」です。そして民族として別ならば「文化も違う、宗教も違うはずだ」という理屈なのですが、実際にはその聾者の所属する民族的集団の文化や宗教をもっているので、「聾者として統一的な文化」という理想は結局見つからないままです。言い換えると言語のみにより分類できる民族ということになります。

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