手話研究の星1 カール・カーシュナー①


手話で話す女性のイラスト

宗教関係のコラムはしばらくお休みして、今日から手話研究の星たちを筆者の実体験を元にご紹介いたします。研究業績については、論文をご覧いただくのがベストなので、ここでは人物についての私見を述べていくことで、研究者の実像と研究成果を比較していただき、その思想や文化的背景をご推察いただく資料としたいと思います。

第1弾はCarl Kirchnerです。来日も数回あるので、実際に会われた方、あるいはカリフォルニアの自宅でお会いになった方も大勢おられます。お世話になった方も多いと思います。彼の存在なくして私の手話研究はなかったと思っています。残念ながら2005年に逝去されました。彼は研究者というよりも実践家であり、非常に顔の広い方でした。彼の一家はいわゆるデフ・ファミリーでした。彼自身も夫人のスージーも今でいうコーダ(Children Of Deaf Adults)で、聾の親をもつ手話母語話者でした。家には彼のご母堂である聾のおばあちゃんがいて、そのコミュニケーションのため、4人の子供たちは全員聴者でしたが、手話母語話者でした。外見的に見れば、一人の聾者のために家族全員が手話を使えるという「理想的な」デフ・ファミリーです。これはカール自身の思想が反映していて、それを家族で実践していたということであり、実践家らしい主張でもあります。

彼は早くからトータルコミュニケーションの提唱者でした。当時、彼はカリフォルニア州立大学ノースリッジ校教育学部の准教授でしたが、まもなくそこを辞め、トライポッド(Tripod)という幼児施設を始めました。それについては後述しますが、彼の最初の仕事はギャロデット大学にあるケンドール(Kendall)小学校の教員から、そこのプリンシパルになりました。プリンシパルというのは日本では、バレリーナの世界しか使われませんが、訳せば副校長です。ただし日本とは制度がまったく異なるので、要注意です。

アメリカの小中学校は9年制で、場合によっては幼稚園も併設しています。副校長はそれぞれの学校にいて、それらを統括するのが校長Superintendentで、人事を含めた学校経営のみに専念します。日本では教頭や副校長から出世して校長になるのが一般的ですが、アメリカでは校長は公募であり、教育経営の博士号をもっていることが条件になっていたりします。教育の実質的指導者はプリンシパルが担当します。日本では校長を含めた人事は地方自治体の教育委員会が担当しますから、どうしても役所や政治的な力が働きますが、アメリカでは人事は管理職が担当します。これは大学人事でも同じで、学長は公募であり、学部長も公募です。そして人事権は学部長にあります。学長人事は州によっても違いますが、知事が任命したり、学内の選挙で決まることもあります。日本は明治以来の中央集権制度が今も続いていますが、欧米は比較的民主的な運営になっています。当然、教育内容や教科書を国や州が決めることは少なく、自治的な決定がなされています。私立学校は宗教系が圧倒的に多いため、宗教の教義が優先されることは自然な流れです。

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