手話研究の星9 フィッシャー(Susan D. Fischer)

NTIDでは、日本でも有名になったスーザン・フィッシャーに会いました。スーザンとは、その後もあちこちで出会うことになり、その都度、親しく挨拶することになるのですが、親しくなった理由の1つが、彼女の夫が黒田茂幸先生という日本人の言語学者であることも関係しています。黒田茂幸先生は生成文法の枠組みで日本語を研究した博士論文の提出者としては、井上和子先生につづく二人目で、Generative grammatical studies in the Japanese languageというタイトルで提出されました。その後、生成文法だけではなく、言語学、言語哲学、他にも数学(数理言語学)で黒田標準形にその名を残すなど、幅広い領域において重要な業績を残しておられます。
私の米国留学時には既に有名でしたから、当然お名前は知っており、フィッシャーさんの夫であることに驚きました。そして彼女はロチェスター、黒田先生はカリフォルニアのサンディエゴ在住ですから、なおさら不思議だったのです。その理由を聞くと、彼女はこともなげに、お互いに仕事があるから、月に一度、双方からの真ん中になるテキサスなどでデートする、という答えでした。「ロマンチックでしょ?」という彼女の言葉には、うなづかざるをえませんでした。彼女はそのせいか、日本びいきで、私にも興味をもったようです。日本には手話研究者はいないと思っていたようです。
フィッシャーの学問的業績は「手話の語順はOSV」ということを初めて発表したことです。欧米の言語はほぼSVO型ですから、アメリカ手話も当然SVO型だという意見が大勢を占めていたのを批判したわけです。ちなみに日本語はSOV型に分類されています。目的語を文頭に置く言語はありえない、というのがアメリカ言語学会の常識でした。その後、手話は同時的表現が多く、語順に意味がないことがわかってきて、語順を巡る議論は終息しましたが、日本では未だに議論する人がいます。
これは日本語に対応するタイプの手話だけを念頭に置いているからで、実際の日本語は格助詞が名詞に付着してできる名詞句が主語や目的語、副詞になるため、それだけ見ると「語順は自由」のように思えます。しかし、名詞と助詞には厳格な語順があって、「私・は」のように名詞・助詞の順は変えられません。名詞句になって初めて順序が解放されるのですから、「日本語の語順は自由」というのは誤りです。日本手話についても、語順が決まっている場合もあるので、手話には語順がない、というのも誤りです。代表的な語順としては、被修飾語・修飾語です。日本語の「七時」は手話では「時・七」となります。主語、目的語、動詞の語順に拘るのは欧米の言語だけを念頭にした議論であり、それがその言語にとって重要な意味をもつからです。そのため、日本の中学生が悩む「受け身形」の変形という言語操作を英文法として学習しなくてはならないわけです。英語と日本語と手話を比較しながら、考えてみると、文法という言語現象の本質が垣間見えます。それだけでも英語学習や手話学習の意義があると私は考えています。そしてそれが日本語の本質を知る機会にもなります。
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