ポカホンタスの生涯 ― 伝説のヒロイン、その真実と眠る墓

十三夜の月のイラスト

「ポカホンタス」と聞くと、多くの人はディズニー映画に描かれたロマンチックな恋物語を思い浮かべるでしょう。しかし、実在したポカホンタスの人生は、映画とは大きく異なります。彼女はわずか二十歳余りという短い生涯の中で、イギリス人入植者と北米先住民社会との間を生き、アメリカ建国の歴史に大きな足跡を残しました。その人生は、文化の衝突と交流、そして変化の時代を象徴する物語でもあります。

ポカホンタスは1596年頃、現在のアメリカ・バージニア州で生まれました。本名は「マトアカ(Matoaka)」、あるいは「アモヌーテ(Amonute)」とされ、「ポカホンタス」は「いたずら好きな子」「陽気な娘」といった意味を持つ愛称でした。父は約30の部族を束ねるポウハタン連邦の首長ワフンスナコック(一般にはポウハタン酋長)であり、彼女はその娘として大切に育てられました。ポウハタンの名を冠したフリゲート艦は黒船の1つとして日本にやってきました。

1607年、イギリス人が北米最初の恒久的植民地ジェームズタウンを建設すると、彼女の運命は大きく動き始めます。当時まだ10歳前後だったポカホンタスは、入植者たちと交流し、ときには食料を届けるなどして彼らを助けたと伝えられています。

最も有名な逸話は、探検家ジョン・スミスの命を救ったという話です。1607年、スミスがポウハタン酋長のもとへ連れて行かれ、処刑されそうになった際、ポカホンタスが身を投げ出して彼を救ったとされています。しかし、この出来事を記したのはスミス自身であり、それも十数年後になってからでした。現在では、スミスが先住民社会の通過儀礼を誤解した可能性や、自らの冒険譚として脚色した可能性が指摘されています。そのため、この逸話を史実と断定する歴史学者は多くありません。

その後、植民地とポウハタン連邦の関係は悪化します。1613年、17歳頃のポカホンタスはイギリス人によって誘拐され、人質としてジェームズタウンへ連れて行かれました。捕虜生活の中で英語やキリスト教を学び、洗礼を受けて「レベッカ(Rebecca)」というキリスト教名を授けられます。

翌1614年、煙草栽培で成功を収めていたイギリス人開拓者ジョン・ロルフと結婚しました。この結婚は恋愛だけではなく、政治的な意味も持っていました。両者の和平が成立し、その後数年間、植民地は比較的安定した時期を迎えます。この期間は「ポカホンタスの和平」と呼ばれています。1615年には長男トマス・ロルフが誕生します。彼の子孫は現在も続いており、アメリカではポカホンタスの血を引く人物が少なくないとされています。有名なたばこVirginia Slimの会社の経営者とされています。彼は酋長の孫ということで広大な土地を相続し、下記のように英国のLadyの息子という栄誉もあるので、大成功を収めました。

1616年、ロルフ夫妻と幼いトマスはイギリスへ渡りました。ロンドンでは「文明化された新世界の王女」として紹介され、多くの貴族や知識人の注目を集めます。宮廷では国王ジェームズ1世や王妃アンとも謁見し、植民地事業を支援する象徴的存在として歓迎されました。また、病床で、長年会っていなかったジョン・スミスとも再会したと伝えられています。

しかし、幸せな生活は長く続きませんでした。1617年春、一家はバージニアへの帰国を予定して出航しましたが、テムズ川河口近くの港町グレーブセンドでポカホンタスが突然体調を崩します。肺炎、結核、天然痘など諸説ありますが、正確な死因は現在も分かっていません。1617年3月21日頃、21歳前後という若さで亡くなりました。

ポカホンタスはイングランド南東部ケント州グレーブセンドにある聖ジョージ教会(St. George's Church)に埋葬されました。しかし、教会は1727年の火災で焼失し、その後再建されています。このため、彼女の正確な埋葬場所は現在では分からなくなっています。それでも教会内には記念碑が建てられ、教会の庭にも銅像が設置され、毎年多くの人々が訪れています。墓そのものは失われたものの、彼女を偲ぶ場所として大切に保存されているのです。

今日の歴史学では、ポカホンタスは「白人開拓者を救った少女」という単純な英雄像ではなく、急速に変化する時代の中で二つの文化の狭間を生きた一人の女性として再評価されています。彼女は先住民でありながらイギリス文化を学び、和平の象徴となり、短い生涯の中でアメリカ史とイギリス史の双方にその名を刻みました。映画が描いた恋愛物語とは異なるものの、その実像は、文化を越えて人々を結び付けようとした実在の女性として、今なお多くの人々の心を引きつけ続けています。

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