彼岸



新暦3月18日は旧暦如月16日で彼岸の入口にあたります。彼岸は本来、春分の中日の前後各3日間を合わせた7日間を彼岸会(ひがんえ)と呼びいろいろな仏事を行います。彼岸とはあの世のことで、極楽浄土のことです。岸と書くのは川の向こう側という意味で、この川はいわゆる三途の川です。死ぬことは怖いことというのが現代の死生観ですが、仏教ではあの世は苦もなく楽な世界なので死ぬことは怖くないと教えています。そして彼岸の日にはあの世にいる祖先を供養し感謝するための行事が行われるというのが本来の意味です。

彼岸の食べ物といえば「おはぎ」と「ぼたもち」ですが、おはぎは御萩と書き秋の彼岸のイメージで、ぼたもちは牡丹餅と書き春のイメージなのですが、地域によって春も秋もおはぎあるいはぼたもちというところもあります。作り方は簡単で基本としてはもち米とうるち米を混ぜて炊き、すりこぎなどで適当に潰して、それを丸めて、あんこで包むだけです。あんこには粒のままのものと粒をつぶしたこしあんがあり、好みの問題ですが、小豆が秋にとれることから、秋のおはぎは皮もおいしい粒あんで作るという人もいます。また萩の花は小さく、牡丹は大きいので、おはぎは小さめ、ぼたもちは大きめという話もあります。炊いた飯を潰す時、やや硬めに米が残るような潰し方を「半殺し」、ほぼ全部潰してしまう潰し方を「みな殺し」と呼んでいます。

ある旅人が山の中に宿を借りた時、おじいさんとおばあさんが深夜に「あの客人には半殺しがええじゃろうか」「いや、どうせなら皆殺しがよかんべ」と会話しているのを聞いてあわてて逃げだすという話が民話や落語にあります。中には「手打ち(そばかうどん)がよかんべ」という下りがある場合もあります。

おはぎやぼたもちは餅つきをする必要がないので、作るのも簡単です。そこで「夜船」とか「北窓」という言葉遊びもありました。夜船は闇の中で船がいつ着いたのかわからない、ということから、北窓は窓が北向きだと月が見られない、という洒落です。この呼び名は彼岸ではなく、夏に食べるものを夜船、冬に食べるものを北窓と呼んでいたそうです。今でもそうですが、この食べ物は季節だけでなく年中食べたくなる和菓子ですね。

最近は小豆あんだけでなく、黄な粉をまぶしたり、胡麻をまぶしたりするものも増えてきました。おはぎの専門店というのも登場し、練り切りのような美しいおはぎを売っている店もあります。ダイエットにいいとかで、ちょっとしたブームになっています。

彼岸には祖先の供養、ということなのですが、たまたまこの日に亡くなった偉人がいて、柿本人麻呂、小野小町、和泉式部などの命日です。そこでそれぞれに人麻呂忌、小町忌、和泉式部忌が営まれます。あるいはまとめて「精霊(しょうりょう)の日」と呼ばれています。本来は旧暦なのですが、今は新暦により供養されます。3人とも本当は記録がはっきりしないので没年不肖なのですが、この日ということになっており、俳句の季語に使われています。また有名な「いろは歌」は諸説がありますが、人麻呂が作ったという説もあります。この歌には謎が多く、推理小説のネタになったりしています。小野小町も詳細が不明な人ですが、美人の代表として有名です。現在ではコメの銘柄にまで使われています。この米は秋田産ですが、小野小町は今の福島県で生まれたという伝説になっています。世界三大美人といいますがこのランキングは日本独自です。

彼岸

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