やまとことば⑥ ある・いる1



「ある」 は、物や事柄がそこに存在しているという意味で使われます。 その一方で、 「いる」 は、人や動物などの生き物がそこに存在しているという意味で使われます。

「ある」には、「有る」と「在る」の2種類があります。漢字で書くと「有る」と「在る」に書き分けられます。同じ音のヤマトコトバが漢字で書き分けられるということは、漢字が入ってきて、概念が分化したと考えられます。「有る」は、所有や物の有無を意味する言葉なので、基本的に人や生き物には使いません。この「基本的」という点がミソです。「在る」は、「位置する・存在する」という意味です。「いる」には「居る」という漢字が当てはまりますが、人間などの生き物だけではなく、動いているもの全般に使われます。例えば、「追い越し車線に車がある」という場合、多くの人は停車している車を思い浮かべます。一方、「追い越し車線に車がいる」という場合、動いている車を想像する人がほとんどです。このように、「いる=居る」は、生物に限らず、動いているものの存在を表す際に広く使われます。ルールを単純化すると、「ある」は無生物か生物か、で意味分類され、「いる」は動きのあるなし、で意味分類されていることになります。

こういう分類は言語学や国語学を学ぶ上では必要ですが、日本語の母語話者は自然に使い分けができます。母語話者(ネイティブ)というのはそういうことで、長い学習経験により自動化されているわけです。しかし外国語として学ぶ人には、長い学習経験をするだけの余裕はないので、経験を圧縮した形、つまり規則によって学習するのが近道です。それが文法ということになります。つまり文法は母語話者には不要で、外国語学習には不可欠ということです。母語話者といえど、外国語として教える場合には文法知識が必要となります。そして文法を知ることで、内省という自分を改めて知るのに役立ちます。それまでは自然にできているので、気にも留めなかったことを改めて内省することで、より深い理解と、なぜ外国人が理解できないか、という問題に遭遇した時の解決のヒントになります。

「ある」「いる」は欧米の言語では英語のbeに相当する存在を示す動詞で表されます。こういう基本的な語ほど理解がむずかしく、日本人にとって理解がむずかしい語の1つになっています。たとえばLet it be. Let me be there. To be, or not to be.  などは「名訳」がありますが、それだけ普通訳がむずかしいということでもあります。逆に「ある」「いる」の違いを英訳するのはなかなかむずかしいです。「車がある」と「車がいる」は普通だとなかなか使い分けがむずかしいです。ためしに翻訳アプリでは「車がある」はI have a car.  「車がいる」はThere is a car.と訳してきました。ちなみに「追い越し車線に車がいる/ある」の訳はThere is a car in the overtaking lane.とどちらも同じで、日本語の持つ「動いている、止まっている」の区別はできませんでした。もし訳すとしたら、moving, stoppingなどの追加語彙が必要になります。こういう翻訳技術も経験により学習するしかありません。しかし規則として知っておくと機械翻訳の使い方も変わります。

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