文具の文化



最近、日本に来る外国人の御土産に文房具が人気のようです。確かに文房具の進化と多様化はものすごいものがあり、キャラクタ物もあって、子供から大人まで楽しく使えます。そして何より、専門家用の文房具の工夫と発明は脅威的です。数十年前まで、ヨーロッパで画材を買ったり、ドイツで文具を買うことがいいお土産でしたが、隔世の感の思いです。製品は見ればわかるので、言語の問題は少ないのですが、文房具には特別な日本語が使われています。たとえばボールペンは英語だとballpoint penです。あるいは単にballpointといいます。時には書くものは同じくpenだけと思っている人もいます。イギリスではbiroといい、これは発明者のハンガリー人ビーロ(ビーロー・ラースロー(Bíró László József)に由来します。日本ではほとんど知られていない事実です。今はあまり使われなくなり高級文具になった万年筆は明らかに毛筆を念頭にした名前ですが、これは1884年に日本初の国産万年筆を模作した大野徳三郎と言われています。そして大元堂の田中富三郎が万年筆の日本での普及に努めました。しかし、「末永く使える」という意味で「万年筆」の訳語を与えたのは内田魯庵というのが通説だそうです(Wikipedia)。英語ではfountain pen(泉のペン)といいますが、歴史は古く、万年筆の原型はエジプトのファーティマ朝カリフであるムイッズが衣服と手を汚さないペンを欲したことから、953年に発明されたそうです(同上)。日本でも江戸時代後半の発明家国友藤兵衛が「御懐中筆」の名で万年筆あるいは筆ペンのようなものを発明していたそうです(同上)から、意外と歴史は古いのです。しかし万年筆はインクの補充の問題や入れるインクに制限があるなどの問題があり、サインペンが発明されました。サインペンは英語では、marker penあるいは単にmarkerまたfelt tip penあるいはfelt penというように一定していません。日本でもマーカーペンということもあるので、これは世界共通になってきています。日本でいうマジックはmagicではなくpermanent markerというようで、油性マジックのように消えないことからくるようです。しかし水性マジックのようなものも出てきて、そうなると全部markerでまとめられているように思います。最近、いろいろな物が出ている消しゴムは英語ではeraserあるいはrubberといいます。前者がアメリカ英語、後者がイギリス英語です。日本語の消しがerase、ゴムがrubberですから、日本語は両方の意味をもっているわけです。英語のrubは「こする」という意味なので、こすって消すからrubberで、昔はパンで字を消していたのですが、ゴムでも同じことができることがわかり、そこでゴムもrubberになったという語源があります。日本ではプラスチックで作られるのが一般的になり、プラスチック消しゴムという語義矛盾のような用法が広がっていますが、消しゴムのゴムはもうゴム製であったことが忘れられているからのようです。消しゴムの正式名称は「字消し」で工業規格では字消しとなっています。アメリカ英語のeraserは黒板消しの意味もあり、ややこしいですね。

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