言語技能測定技術と言語教育理論② 試験範囲の公開


コラム挿絵:手話技能検定のイメージ画像

手話技能検定試験は手話の言語的特性に鑑み、他の言語検定とは異なる方法をいくつかとっています。その1つが「試験範囲の公開」です。この方法は手話検定独自の手法なのですが、後発の全国手話検定も同じ手法を採用しているのは、理由が不明です。試験範囲が公開されている、ということは受験者にとって、受験しやすいことが想定されます。なぜこういう手法を採っているかというと、手話検定は高校受験などのような入学試験と違い、合格人数の制限がないからです。一定レベルの学習達成度があることを証明することが目的だからです。また、英検などと同じく、級に分けていますが、英検などでは、参考書等や過去問題による公開が主体であるのに対し、手話検定ではさらに一歩進めて、特定の参考書等がなくても、普通に手話講座や手話サークルなどで学んだ人が受験できるような制度にしています。受験と言えば、まず参考書を買って、という手段が一般的ですが、それなりの負担があります。手話検定は「手話の普及」を目指しているので、できるだけ費用が少なくても受験できるように、という思想があります。級に分けるレベルには、根拠が必要です。優しい、と難しい、の違いをどこに求めるかです。手話辞書にはそうした分類がなく、単純に、あいうえお順に日本語の見出しになっています。なぜ日本語になっているか、というと「手話に文字がない」からです。「日本語手話辞典」になっています。しかも掲載している語に辞典によるばらつきがあります。そこでまず、「頻度統計」をとることにしました。設立当時発行されていた手話辞典類すべてをデータ化し、頻度統計を取りました。なぜそうしたか、というと、手話辞典編纂者は各自の判断で、必要と思える手話を掲載しているので、そうした編集者による個人差を平均化するためです。簡単にいえば「誰もが必要と思っている語」を基本的な語と考えるわけです。しかし、それだけでは、さらに細かな難易度まではわかりません。そこで、日本語の教育語彙と比較します。教育用語彙はそれに基づき、小学校の国語教育がなされています。聾児も同じ教科書で学習しますから、「日本人として必要な語彙」であり、それに対応する手話語彙をレベル分類することで、手話検定用語彙のレベル化をしたのです。手話語彙の頻度統計を順に並べただけでは、意味的な不均等が出ることもあります。たとえば、春夏秋冬で、秋だけが頻度が低い、といった現象もあります。そこを調整して、対立語も揃うような形にして、検定語彙を制定しました。また日本語では基本であっても、手話語彙にない語もありました。手話会話では指文字などで表現されます。そこで、指文字や数字も早い段階で、導入するような工夫をしました。とくに7級という指文字専用のレベルを作り、小学校で指文字の清音だけを習っただけでも受験できるようにしました。指文字は、実は産出が簡単な割に受容つまり読み取りがむずかしいのです。実際に検定試験結果を見ると、上級でも指文字や数字の読み取りが困難な人が多いことがわかってきました。その原因はわかっていますが、それは後日の説明とします。

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