言語技能測定技術と言語教育理論⑥ 試験範囲語彙の階層化
手話技能検定協会のホームページをみていただくと「初めての方へ」というページに「手話技能検定の級とレベル」が示されています。(https://www.shuwaken.org/first/first.html)そこに「単語数・例文数」が示されています。6級は「単語数:100程度:動きのある指文字(濁音・半濁音など)・数字」となっています。もっとも基本的と思われる手話語彙を100語、選んでいますが、前述の意味カテゴリーを調整すると、どうしても100語ぴったりにはなりません。そして時々、頻度調査をして、入れ替えることもあるので、100語強の語彙になっています。学習期間の想定が3カ月で、それは講座や学校の学期がほぼ3カ月であることを考慮しています。講座によっても違いますが、多くの手話講座では、まず指文字を教え、簡単な単語を教えることが多いです。そこで、そうした初心者向け講座を修了した学習者の実力テストとして利用できることを想定して設計されています。通常、挨拶も習いますが、それはあえて文に入れていません。まず覚えない人はいない、という想定です。そして次の5級は単語数:200程度、基本例文数:30程度となっています。この200語には6級の語彙100語が含まれています。つまり5級語彙として、追加された語彙は100語です。これは語彙学習における基本技法である「積み重ね」という概念が示されています。私たちは、単語を覚える時、「今日は10語を覚えよう」として10語を学習します。それは簡単です。そして次の日、「また10語を覚えよう」とします。そして「20語覚えた」ような錯覚をもちます。実際にテストすると、前日覚えたはずの10語のうち、いくつかは「忘れて」います。つまり「単純積み重ねはできない」のが学習です。「エビングハウスの忘却の定理」と呼ばれる忘却の度合いに関する仮説があります。それによれば「人は一晩寝ると2割は忘れる」そうです。むろん、個人差もあり、環境条件にもよるのですが、だいたいそのくらい、ということを頭に置いてください。「一晩寝ると」なので、二晩寝れば、さらに記憶が減ります。一週間もすれば「覚えているのは一割程度」ということになります。ということは、「毎日、忘れた分を取り戻す」という努力が必要ですが、それは2語程度なので、意外に簡単です。しかし、その次の日になると、別の語を忘れます。こうして、10語を完全に覚えている状態を維持するには、毎日、少しずつ補強していかねばなりません。これが「積み重ね」です。こうして100語を完全に覚えておきつつ、次の100語を追加していくのですから、実は次の3カ月は最初の3カ月より大変です。ただ、ありがたいことに、人は何度も反復して覚えたものは「身体が覚えている」状態になり、記憶の奥に入るので、だんだん忘れにくくなります。「繰り返し学習」の効果があります。こうして下の級で獲得した語を基礎として、学習量を倍にしていくことで、語彙量が増えていきます。上級にいけばいくほど、だんだん楽しくなり、また語彙の共通点や似た点がわかってきます。こうして「学習の壁」を越えていけるように、と試験範囲(学習目標)を設計しています。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 |