言語技能測定技術と言語教育理論⑯ 手話数字の歴史的変化


コラム挿絵:手話技能検定のイメージ画像

数字については、文化差があります。欧米では千以上を3桁で考えます。日本は4桁です。日本以外では中華系の文化だけのようです。日本の4桁文化は古代中国から来たようなので、同じなのは当然でしょう。この桁という文化は言語と深くつながっているので、まず変わらないと予想されます。現在、数字の桁につけられるカンマ(,)は西洋式になっています。そのため、日本人がアラビア数字を読む時、面倒です。さすがの明治維新も桁までは変えられませんでした。また算盤には桁を示す点が打ってありますが、それは4桁のままです。珠の方は5つから4つに変更されましたが、桁点は維持されました。このように日本文化に奥深く根付いている桁の概念ですから、日本手話も同じ4桁になっています。しかし表現型はかなり変化しました。まず「十」は、現在型は「指を曲げる」ことで示しますが、昔はOKや「金」のように親指とひとさし指でマルを作りました。今でもこの形を維持している方言もあります。そして1つ飛ばして「千」は現在、「千」を空書する形と指文字の「ち」の形が併存しています。指文字の「ち」は千から来ているので、こちらが先です。そして「万」は全指でつまむ形になっています。これらの形の構成原理を推定すると、「十」=親指とひとさし指1本、「千」=親指と3本指、「万」=親指と4本指になっていることがわかります。つまりマルの数を示していたわけです。それであれば「百」は親指と2本指のはずです。実は古い手話に、この形が残っていて、「百貨店」は「百」+「建物」という合成語になっています。「千」のもう1つの形である空書は「二千~九千」を手話する時には、同時的に表現できる利点があり、それが普及した理由と考えられます。「百」は今では、ひとさし指を跳ね上げる形が普及し、その起源は不明確とされています。昔の手話辞典などから、いろいろ考察すると、実は、当初はひとさし指を跳ね上げているのではなく、左手を2本指と親指でマルを作り、それを「指差す」ことで百を表現していたことがわかりました。それが、左手が、2本指から全指に変わりました。この形は古い方言型にも残っています。そして左手は省略されるようになりました。つまり、ひとさし指は跳ね上げているのではなく、指差しという動作の名残りなのです。このひとさし指の動作に、漢数字が合成され「二百~九百」が現在のようになりました。こうした手話表現の歴史的変化の研究はまだ進んでいませんが、その原因の1つが「手話源」への関心にあると思われます。手話学習では、いつも「この手話の起源は…」みたいな解説があります。それは「手話が覚えやすい」ということですが、学習者は「手話にはすべて語源がある」と思います。もちろん、語源はあるのですが、「諸説ある」のが普通で、真の語源の他に、後世の人が捏造したものが含まれます。実は「手話源」にも民間語源がかなり多くあります。「百」の手話源もその1つです。話のネタとして紹介するのは指導上、あってもいいのですが、学問的な裏付けがあるかのような言説には注意すべきです。

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