言語技能測定技術と言語教育㉒ 移行法


コラム挿絵:手話技能検定のイメージ画像

自然法は環境に依存する学習法で、直接法は特殊な出会いにおける本能的なコミュニケーション方法といえます。それらに対し、語学として勉強する場合、母語の知識を活用して、外国語を学ぶという方法がよく使われます。移行法と改めて言われると違和感があると思いますが、学校で習う英語の時間の方法です。辞書を使った英文解釈や英作文、文法学習は日本語の知識が不可欠です。言語習得には、幼児のように、環境から自然に学習する第一言語つまり母語と、第一言語を習得した後に学習する第二言語つまり外国語では大きな違いがあります。第一言語の学習過程では、日本語のように通常は1つの言語であることが多いのですが、環境によっては、複数の言語を同時に習得することがあります。それがバイリンガルと呼ばれる複数言語を自由に操れるとされている存在で、外国語学習が苦手な人から、うらやましがられることがよくあります。実は言語学習は文化も一緒に習得するので、多言語話者は多文化者でもあります。文化はその人の自己同一性つまりアイデンティティという「自分は何か」という意識の判断基準となります。多言語話者は複数の言語が操れるという能力の反面、複数の文化をもつので、アイデンティティに揺れを感じるようになります。内容は違いますが、LGBTQといわれる性的同一性に悩む人と同じような悩みをもっています。結論として、言語は単なる技術ではなく文化習得を伴う、ということで、逆に考えると、言語学習は文化学習でもある、ということです。そのため、母語による言語と文化を持っていても、言語学習の過程で、自然に文化学習もします。言語習得が上達してくると、その言語の背景にある文化も、それに応じて理解できるようになります。昔、「アメリカかぶれ」という表現があり、悪い意味でしたが、ある意味正しい指摘ともいえます。アメリカ英語を学習し、音楽や会話を楽しんでいるうちに、次第にアメリカ文化になじんでいきます。アメリカ文化は単純でなく、地域や職業や人種が多様であり、英語も多様です。その分、文化も多様です。どの変種を学習するかで、文化学習も異なります。一番の問題は、日本国内で学ぶ英語は文字学習が中心で、地域や職業や人種の「クセ」のない英語を学習します。いわゆる標準語です。そのため現地に行くとそのままでは使えない「実用的でない」現象が生じます。これが移行型学習のオ問題点です。自然法のような環境に依存しない、直接法のような意味範囲の制限がない、という利点がある反面、実用性が乏しくなる、という弱点があります。また、学習段階での母語の能力により、習得内容が異なります。子供の頃の英語学習が大人になると役立たない、のはそこが原因です。子供の頃は母語による知識も少なく、コミュニケーション内容も貧弱なので、学習も簡単です。子供のうちは誰でも簡単に覚えます。大人になって、ビジネスで利用しようとする時には、知識も豊富で、それに対応する外国語の学習はそれだけ多くの努力を必要とします。英語が苦手な子供は少なく、大人に多いのは、移行型学習が行われているためです。

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