手話の雑学15


手話で話す女性のイラスト

手話にかぎらず、言語習得は、言語環境によって決まります。周囲が日本語だと子供は日本語を習得し、周囲が英語なら英語を習得します。この最初に習得する言語を母語mother tongueといいます。直訳すると「母の舌」ですが、英語ではtongueは言語の意味があります。日本では舌は身体部位の意味しかありません。焼肉では「タン」といい、牛タンは「牛の言語」の意味には絶対になりません。蛇足ですが、ハツ(心臓)はheart、レバーはliverが語源ですから、焼肉を食べながら英語の勉強をするのもいいかもしれません。他にどんな部位があるのか、どんな語源があるのかを勉強すると、子供たちも楽しく、おいしく英語が勉強できます。

話を母語に戻すと、言語の初期環境は母子関係にあるのは、時代が変わっても変化しません。なぜなら授乳という行動があり、授乳者は自然に赤ちゃんにいろいろ話しかけますし、赤ちゃんはひたすら聞いています。むろん、言語だけでなく、いろいろなしぐさをします。近年、「授乳は母親だけの責任ではない」といった極端な主張をする人もいますが、動物の世界ではすべて母親が授乳するのであり、生物学的な役割が決まっているので、人間が動物であるかぎり、例外を除けば、母子関係が言語習得の初期環境であることは否定できません。そこで母語という表現を敢えて「父語」とか「親語」のように言い換えようというのは言語統制であり、特定の思想の強制に他なりません。

母親の次に重要な言語環境が父親や家族です。近年はシングルマザーのような母子家庭も増えていますが、それでも保育者などの成人が関わっていて、言語環境を形成しています。つまり母語といってもすべてが母子関係だけから習得したのではなく、総合的な言語環境から言語を習得していきます。少し複雑な言語環境として、母と父の言語が異なる場合、また母と周囲の大人の言語が異なる場合だと、子供が習得する母語は言語の混在が起こります。これがいわゆるバイリンガル(二言語話者)です。一番多いのが二言語と混在なので、バイbi、つまり2という表現を使いますが、多数の場合はマルチmultiですから、マルチリンガルということもあります。多言語を操る人をポリグロットpolyglotいう表現が昔は使われていました。グロットというのは「のど」のことです。グロットも元は身体部位の名前ですが、言葉の意味ももっていました。舌にしろ喉にしろ、音声言語を前提としている表現であることには変わりありません。つまり昔は「言語とは音声言語のこと」という「常識」が欧米を支配していました。その背景には宗教があり、「ことばは神そのものである」という信仰があるからです。この言語に対する価値観は今もほぼ変わっていません。言い換えると「ことばがわからない、ということは神がわからない」という論理です。蛇足ですが、神のことばが「福音」であり、音声言語が前提となっています。従って、手話が言語であるかないか、ということは神の祝福が受けられるかどうか、という重大なことです。

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