手話の雑学46

文法研究の枠組みは手話文法研究にとって、大きな課題です。英文法の枠組みも日本文法の枠組みもそのままでは適用できないことが予想されるからです。もしかすると手話文法独自の枠組みを創設しなければならない可能性があります。そのためには、文法とは何か、言語研究とは何かという広範囲な知識と経験がないとむずかしいでしょう。これが、日本手話文法研究がなかなかでてこない理由の1つです。理由の1つとしたのは、他にも研究者の数が少なく、歴史が浅いという理由があるからです。英文法がそれなりに体系化が進んでいるのは、歴史も長く、研究者の数は無数です。日本文法も英文法ほどではないにしろ、古代からの歴史があります。それに比べると、手話文法研究は非常に貧弱です。それでも細々ながら研究成果は出てはいます。興味をもたれる人は多いでしょうが、実はまだ研究歴が浅いので、むずかしい言語学用語や概念がでてきます。そして新しい枠組みがあるので、直感的に理解するのは困難です。
では手話を翻訳できないか、というとそうではなく、意訳は可能です。翻訳とは違いますが、通訳という言語変換は行われていますし、その実績やデータも増えていますから、翻訳の可能性は大いにあります。文法を利用した直訳はむずかしくても、語彙から意訳することはできます。とくに通訳動画を蓄積して、AIによる疑似翻訳は可能性があります。とはいえ、英語と日本語のようなわけにはいきません。手話には文字がないので、動画データを入力し、その通訳データを大量に集める必要があります。これは単語レベルでは既になされていますが、それでは逐語訳になってしまいますから、文レベルでの対応例の収集が必要になります。それはこれからの課題であり、まず膨大な資金と時間と労力が要ります。
日本手話研究の歴史が浅いとはいえ、そろそろ50年近くになってきて、これまでにいろいろな成果が出てきています。高度な文法は抜きにして、手話学習に必要な程度の基本文法についてはご紹介しておきます。本来なら、主語、述語や品詞の話をすべきですが、これらの文法現象は日本手話の場合、日本語や英語のような「音声言語」とはかなり違うため、まずは、誰にでも観察できる、わかりやすい部分からご紹介します。まず「数」という概念です。日本手話では、基本的に指の数が数を表します。1本指が1,2本指が2,というのは手話の初期学習で習いますし、直感的にわかります。そして3本指、4本指も3,4を表すのですが、手話数字以外で使われることは少なく、5本指だと「大勢」という概念になります。例えば1本指を立てて、前に動かせば「人が行く」になります。2本指なら「二人が行く」になります。5本指だと「大勢が行く」になりますが、これを両手でやると「遠足」になります。つまり、日本語と日本手話では語の作り方、つまり「語分化」が異なります。当たり前のことですが、言語が違えば語分化は異なります。日本語と英語、そして日本手話ではそれぞれ分化が異なるのは当然です。
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||
| 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
| 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
| 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
| 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | ||

