手話の雑学47


手話で話す女性のイラスト

英語の時間に「単数、複数」という概念を習いました。名詞や代名詞に複数形というのがあって、語尾にsをつけるだけでなく、不規則変化というのもあって、面倒で覚えきれませんでした。実は日本語には基本的に複数形は存在しません。言い方を変えると「日本語は数概念を意識しない言語」です。たとえば「あ、あそこに牛がいる」と言った場合、何頭の牛なのかは意識しません。1頭かもしれないし、数頭かもしれないし、牛の群れなのかもしれません。「古池やかわず飛び込む水の音」という有名な俳句では、池の数、蛙の数、音の数は文からはわかりませんが、日本人ならだいたい、それぞれ1個だと思うでしょう。そうでないと俳句の情緒がありません。実はこれを英語に翻訳する時、それぞれの数を確定しなければなりませんから、訳者は苦労したでしょう。結果として、訳者はすべて「単数」にしました。こうして、いろいろな俳句や和歌など、一度それぞれの名詞や動詞の数を考えてみるのもおもしろいです。そうすると「日本語には数がない」ことが実感できます。世界の言語で数を表示しない言語は少数ですから、日本語はその意味でも特殊な言語です。

さて日本手話の方ですが、この言語は数をほぼ表示します。しかも単数と複数の他に、両数という2を表す概念があります。2本指の場合だけでなく、両手があるので、それぞれの手が1本指を示すことで、両数になります。細かい議論は避けますが、片手の2本指の場合と、両手が1本ずつの場合では意味が異なります。日本語に複数や両数の概念がまったくないわけではありません。「両方」というのは両数ですし、「片方」というのは2が前提となっていて、その一部ということです。靴の片方、というように、本来2つでペアになっているものの、一方を片方というわけです。また「僕たち」は複数ですから、複数が表現できない、ということではないのですが、「通常は数を意識しない」のです。逆にいえば、英語は常に「数を意識しなければならない」ということです。このことを覚えておくと英語学習にも役立ちます。日本手話の場合、数はいつも意識しているわけではありませんが、「ほとんどの場合、数を意識する」という状態だと考えられます。数は指の数だけでなく、両手で表現されることもあり、空間に位置を指定することで示されることもあります。このため、翻訳の際には注意を要します。また数による語分化も異なるため、訳語にも注意しなければなりません。たとえば、「会う」の場合、両手がそれぞれ1本指だと、「AさんとBさんが会う」ということになりますが、それぞれの手の指の数を変えるといろいろな組み合わせがでてきます。そして両方の手を5本指という複数にすると「集まる」という訳語に替わります。「遠足」の場合と同じように、複数が多数になると、日本語では別の語になります。ちなみに同じことを英語では「meet」で表すことができます。ミーティングmeetingは多数が前提ですが、単数同士でも複数でも使えます。その意味では日本手話の「会う」は英語に近い用法といえます。

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