手話の雑学64

「私とあなた」が主語という文法は、日本語の特徴で、英語文法からは考えられないしくみです。英語ではI meet you.とYou meet me.と主語と目的語は動詞を挟んで前後に分かれて明快に示されます。*I and you meet.のような文は存在しません。
このように主語、目的語という説明は言語ごとに異なり、英語文法を日本語に適用しようとすると、こうした矛盾が出てきます。むしろ、項という一般的な用語で説明することで、関係が明解になります。日本手話の「会う」は日本語の用法に近く、「2つの項」が同時に表現されています。日本語では、「私」と「あなた」を同時に発音できないので、「と」で結びついていて、その順序には意味がありません。「私とあなた」でも「あなたと私」でも論理的な意味は変わりません。
これは文レベルの議論です。「走る」の場合は、語のレベルの議論になります。日本語では「歩く」は「ある」と「く」という形態素に分けられます。この中に主語的要素、目的語要素は表示されていませんから、項はありません。しかし、日本手話の「歩く」では「二本指」は「人」の意味が感じられます。この「二本指」は「歩く」だけでなく、他にも多くの動詞になっています。こうした「人」を感じさせるものを、従来はSASSとかCLと呼び、手話の特徴という説明をしてきました。この現象を形態論的に考えると、「歩く」には項があり、「二本指」が項であるといえそうです。日本手話の「歩く」は「人が歩く」の意味なのです。実際、「子犬が歩いている」には、この手話は使えません。ロボットのように「擬人化」しないと使えないのです。言い方を換えると、日本手話の「歩く」には項がある、といえます。つまり「日本手話の動詞に相当する要素には、項が含まれる」のです。日本語や英語において、項が動詞に含まれることはありえません。英語では項は主語や目的語になります。日本語もほぼ同じように主語や目的語になるのですが、ときには主語の中に2つの項が含まれることがあります。英語などでは、主語になる項を「外項」、目的語になる項を「内項」といいます。この内外の違いは、述語を中心に考えると、主語は述語の外、目的語は述語の中にあるからです。日本語でも、この内外の違いは同じです。しかし、日本手話はそうではなく、述語の一部である動詞の中に、主語的な項も目的語的な項も同時に存在しています。それは手話が同時的に表現されるからです。「会う」では両手が動くので、両手が項になっており、「歩く」では片手が項になっています。こうした手話独自の構造を説明するため、外項や内項に対し、「内蔵項」と呼ぶことにしました。これは「音声言語にない、手話独自の構造」です。そして、項である手の形はいわゆるCLと呼ばれている特別な形なのです。そこで、可逆的な定義として「CLは手話動詞の内蔵項」と定義できます。しかも動詞の変化しない部分、つまり語幹になっているので、もう一歩進めて、「CLは動詞に内蔵されている語幹となる項」という定義が可能になります。同じことを「手話動詞の語幹はCLという内蔵項」ともいえます。
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