手話の雑学68


手話で話す女性のイラスト

原語レベルが同じであれば、「文対応」による英文日本語文辞典が可能です。実際、英会話用に対応文例辞典が多く発行されています。普通は場面ごとに例文が選択され、編集されています。日英だけでなく、6カ国対応というのも出ています。最近では音声出力のあるものもあります。この辞書では、単語の解説も文法の解説もなく、日本語を入力すると、対応外国語が出てくるのですから、便利であり、とくに海外旅行用やインバウンド需要に利用されています。

日本語と日本手話の場合も、文対応であれば、辞書化は可能です。近年、こういう「手話文例集」も出てきています。現在、日本語を入力すると手話表現が動画で出力されるものありますが、きわめて場面が限定的です。文例集というのは、使用範囲を限定し、場面を限定することで成立するのですが、「文は無限にある」ため、完全な文例集というのは不可能です。そして語対応レベルでも、相互に1つの語に対する訳語が複数あるため、中学校時代に使った「単語帳」のような単純なものでは実用化できません。まして文レベルとなると、訳文は複数あるのが普通なので、単語辞書よりも、さらに量も内容も多くなります。

日本語と日本手話の場合は、語レベルが同じになる、という面から、対応例文集は比較的簡単にできます。ただ、昔は手話例文を示すには、手話に文字がないため、イラストや写真をたくさん並べるという方法になるため、印刷上の制約もあり、ごく少数の例文集に限られてきました。手話教育の現場では、語彙を「手話辞典」で覚え、例文は先生から習う、という形式が一般的でした。そのため、手話教室や手話サークルが盛んでした。あるいはテレビによる手話教室が出てきました。ところが、近年になってビデオ映像が比較的安価で作成できるようになり、古くはビデオテープ、次はDVDなどの映像メディアが普及しました。近年では、動画配信という新たな映像配信手段が普及し、撮影も高価なビデオカメラでなくても、スマートフォンなどで作成し、編集もできるようになったため、従来の手話教室に代わり、手話動画の講座が出始めています。近い将来、これらの手話例文をまとめた動画なども配信されるようになることが予想されます。ただ、動画は肖像権や著作権が生じるため、今後はアバターや生成AIなどを活用した手話例文なども公開されるだろうと予想できます。

実用的な手話教育という立場からは、対応例文集が大いに活用できるのですが、手話研究となると、手話形態素構造の研究が不可欠です。まずは、日本手話の形態素の抽出作業と、その構造分析が必要です。従来、「手話の音素」あるいはパラメータと呼ばれてきた構成素との関係の研究が重要です。音素というのは当然、音声言語の音韻単位ですが、手話が同じ構造をしているという保証はありません。言語普遍論であれば、そこは無批判的に同じと考えるのですが、言語相対論ではそうはなりません。そもそも「音韻」に相当する概念が手話言語にあるのか、という問題から出発することになります。

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