手話の雑学79

聴覚と視覚はまったく別の媒体なのに、形態音韻が意味の調整装置として働く点では本質的に同じというのが重要なポイントです。
4. 語彙クラス:擬態語と描写的構文(depictive constructions)の相似
音象徴の擬態語は「状態」を描写する語彙です。例は「しんと、わくわく、のそのそ、きらきら」などがあります。手話にも描写的構文(depictive constructions)があります。動きの質で状態を描く表現で、ゆっくり揺れる(疲れ)、細かく震える(寒さ・怒り)、ふわりと動く(軽さ)、といった質感の表現装置が発達します。これは擬態語と構造的に極めて近く、オノマトペが音の形式で感覚を描くのに対し、手話は動きの形式で感覚を描きます。両者はモーダルが違うだけで、同じ認知機構の上に乗っていると言えます。
5. 抽象概念の構築:符号性と象徴性の橋渡し
音象徴は本来、音と意味の“感覚的距離”に依存していますが、わりと抽象語彙に伸びていきます。ずっしり(責任)、キラキラ(未来)、ガラガラ(論理が粗い)などがあります。
手話も図像性が抽象語彙へ拡張します。胸の前で閉じる → 心理的抑圧、顔から外へ流す → 解放、胸に引き寄せる → 自分化・内在化。どちらも、具体感覚 → 抽象概念への橋渡しとして働いています。象徴性は「最初は模倣、後に記号化」という発達を辿り、言語の抽象性を支える足場になる点でも共通です。
だいぶ深い議論になったのですが、例を比べてみると、「直感的に」わかるのではないかと思います。そもそも音象徴という現象は言語学でもあまり扱われていませんし、一般には知られていないことなので、わかりにくいのも当然だと思います。
ここらで、より身近な「ハンドサイン」について考えてみましょう。ハンドサインは言語のようでいて、言語でないようなものですし、身振りと似ていますが身振りでもありません。かといって手話でもない存在です。広い意味でいうハンドサインは、手の形・動き・位置を使って意味を伝える記号体系です。言語学的には 手指による視覚的記号と呼べる存在です。類型としては、
・ジェスチャー:会話に付随する自然発生的な動き。たとえば「こうしてね」と手を添える仕草。
・文化化されたサイン:OKサイン、親指を立てる「いいね」、Vサインなど、多くの人が共通して理解しているもの。
・制度化されたサイン体系:手旗信号、野球のサイン、ダイバーの水中サイン、軍隊のハンドシグナルなど、規則が明確に整備されているもの。
・言語としての手話:文法と語彙を持つ自然言語。ハンドサインの最高度に体系化された例。
これらは同じ「手」を使っていても、抽象度と規則性がまったく違います。
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