手話の雑学96

■ 3. 認知メタファー(conceptual metaphor):抽象概念が身体と空間を介して形成される
手話語彙の多くは、認知メタファーによって統一的に説明できます。たとえば、「理解する」をはじめとする「認知」領域の語彙には、次のようなメタファーが働いています。
・知識は物である → 「つかむ」「しまう」「取り込む」
・理解は内部にある → 頭の内部・体の内側への動き
・アイデアは空間に浮かぶ → 外部から“入る”動作
・不理解は上へ逃げる → 手が上方向に開く/離れる
これによって、見た目は異なる語同士が、深層の意味で“つながる”構造ができます。たとえば、「思いつく」「気づく」「ひらめく」という語は、いずれも外部から内部へ向かう動きを共有し「理解が自分の内部にもたらされる」という共通メタファーで束ねられています。こうした体系は、手話語彙が身体と空間を使った抽象化のネットワークとして組織されていることを示します。
これまでの議論をまとめると、手話は「身体・空間・認知」から構築された意味のネットワークで、手話の語彙・意味体系の本質は次のように表せます。
・身体性が語の形を動機づける
・空間性が語の意味を配置し、文法的関係を構造化する
・認知メタファーが抽象概念を体系的に結びつける
言い換えれば、手話は“身体と空間を使った意味の地図”を直接描ける言語だということです。音声言語が線形(時間軸)で抽象的に記号を組み立てるのに対し、手話は身体の動きと空間配置そのものが意味の組み立て装置として働きます。そのため、手話研究は「言語がどう生まれ、どう抽象化されるのか」という問いにデータを提供し続けているといえます。次に身体性・空間性・認知メタファーが一度に現れやすい日本手話の語彙です。いずれも「手話がどのように世界を捉え、どのように抽象概念を構築するのか」を示す例です。
■ 1. 「わかる(理解する)」:身体内部に“落ちる”というメタファー
形:内側へ向かう動き。ここでは三つの特徴が重なります。
● 身体性:知識や理解は「頭の内部に収まるもの」という身体感覚がそのまま示されています。
● 空間性:動きが「内向き」であることが、意味の方向性(入る⇄出る)を規定します。
● 認知メタファー:理解は内部にある(UNDERSTANDING IS INTERNAL)、知識は物である(IDEAS ARE OBJECTS)
というメタファーが共通基盤になっています。
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