VenturaとTarzana(ベンチュラとターザナ)


十三夜の月のイラスト

Pacific Coast Highwayの中でも、海辺の町VenturaからLos Angeles方面へ向かう101号線のドライブは、単なる移動ではなく、一つの“風景体験”と呼びたくなる旅路です。Venturaの朝は、どこか柔らかな光に包まれています。正式にはSan Buenaventuraという名を持つこの町は、スペイン伝道所時代の歴史を残しながら、現在はサーフカルチャーと穏やかな海辺の生活感が混ざり合う場所です。港近くではペリカンが低く飛び、海風の中をジョギングする人々の姿が見えます。

Ventura周辺の魅力は、観光地化されすぎていない自然で、大型リゾートばかりではなく、小さな町と農園、サーフショップ、古いモーテルが点在し、どこか1960年代のアメリカ西海岸映画を思わせる風景が残っています。途中、Oxnardを通過します。この地域は苺畑で有名で、春になると甘い香りが風に乗って漂うことがあります。海の印象が強いカリフォルニアですが、実は豊かな農業地帯でもあり、101号線はその両方を見せてくれる道なのです。

VenturaからLAに向かう途中にTarzanaがあります。日本ではあまり知られていませんが、Tarzanaという名は、実は小説『ターザン』の作者、Edgar Rice Burroughsに由来しています。彼は1919年、この地域に大規模な牧場を購入しました。当時そこはTarzana Ranchと呼ばれ、やがて周辺地域全体がTarzanaという名で知られるようになったのです。ターザンはアフリカの物語ですが、作者はそのイメージをここに求めたのかもしれません。ただ、この小説には現代的な視点からはいろいろな批判があります。Tarzana付近へ入ると、海岸線の風景から一転して、San Fernando Valley独特の広い住宅街と椰子の木の風景が広がります。この谷の空気には、映画産業と郊外文化が混ざった独特の匂いがあります。かつて多くの俳優や脚本家が暮らし、現在でもロサンゼルスの日常生活を支える大きな生活圏となっています。

興味深いのは、VenturaからTarzanaへ至るこの道筋そのものが、カリフォルニアという土地の多層性を象徴している点です。海、農地、山地、郊外都市、映画文化が一本の高速道路の中で連続して現れます。日本の高速道路では、サービスエリアや都市間移動の印象が強いですが、101号線は「景色そのものを楽しむ道路」と言えるかもしれません。

夕方近くになると、西日が低く差し込み、丘陵地帯が金色に染まります。乾いた草原がまるで古い西部劇の背景画のように輝き、ヤシの木の影が長く伸びます。カーラジオから流れるクラシックロックを聴きながら走っていると、「なぜ多くの人がアメリカ西海岸に憧れるのか」が少し分かるような気がしてきます。

Venturaから101号線を南へ走る旅は、単なる観光ではありません。それは、カリフォルニアという巨大な文化圏を、風景の変化とともに身体で理解していく時間でもあります。そしてTarzanaという不思議な名前に出会った時、この道が単なる交通路ではなく、物語と歴史を積み重ねた“文化の回廊”であることに気づかされるのです。

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