Philadelphia ― アメリカ独立の舞台となった「自由のゆりかご」

アメリカ東海岸、ペンシルベニア州最大の都市フィラデルフィアは、ニューヨーク、ワシントンD.C.と並ぶ歴史都市として知られています。その名はギリシャ語で「兄弟愛」を意味し、17世紀末、イギリスの宗教家ウィリアム・ペンによって建設されました。現在では人口約150万人を擁する大都市ですが、アメリカ合衆国誕生の舞台となった都市として、世界史の中でも特別な存在となっています。
18世紀半ば、イギリス本国は北米植民地への課税を強化しました。しかし植民地側は「代表なくして課税なし(No Taxation Without Representation)」を掲げ、激しく反発します。この対立は1775年に独立戦争へと発展しました。その中心となったのがフィラデルフィアです。
1774年には第1回大陸会議、1775年には第2回大陸会議がフィラデルフィアで開かれました。ここで植民地代表たちはイギリスとの対立を協議し、ジョージ・ワシントンを大陸軍総司令官に任命します。そして1776年7月4日、世界史を大きく変える出来事が起こります。現在「独立記念館(インディペンデンス・ホール)」として知られる建物で、トーマス・ジェファソンが起草した『アメリカ独立宣言』が採択されたのです。
独立宣言は、「すべての人は平等に造られ、生命・自由・幸福追求の権利を持つ」という理念を掲げました。この思想はその後の民主主義国家にも大きな影響を与え、フランス革命や各国の憲法制定にも少なからぬ影響を及ぼしたとされています。
独立戦争そのものもフィラデルフィアと深く結びついています。1777年にはイギリス軍がフィラデルフィアを占領しましたが、大陸軍は厳しい冬をバレーフォージで耐え抜き、軍の再建に成功しました。プロイセン出身のフリードリヒ・フォン・シュトイベン男爵が訓練を施したことで、大陸軍は規律ある軍隊へと成長し、その後の戦況を大きく好転させます。1781年のヨークタウンの戦いで事実上勝利を収めるまで、フィラデルフィアは政治・外交・補給の中心として重要な役割を果たしました。
独立後もフィラデルフィアの重要性は続きます。1787年には再び独立記念館に各州代表が集まり、現在も世界最古の成文憲法として知られるアメリカ合衆国憲法が制定されました。この憲法は三権分立や連邦制度を定め、多くの国の憲法にも影響を与えています。さらに1790年から1800年まで、首都がワシントンD.C.へ移転するまでの10年間、フィラデルフィアはアメリカ合衆国の首都として機能しました。
現在、市内中心部にある独立記念館と自由の鐘(リバティ・ベル)は、ユネスコ世界文化遺産に登録され、多くの観光客が訪れます。自由の鐘は独立そのものを告げた鐘ではありませんが、19世紀には奴隷制度廃止運動の象徴となり、今日では自由と人権を象徴する存在として世界中で知られています。
また、フィラデルフィアは「アメリカ最初」の歴史が数多く残る都市でもあります。最初の公共図書館、病院、証券取引所、動物園などが設立され、科学者・政治家として活躍したベンジャミン・フランクリンもこの地で印刷業や研究活動を行いました。彼の功績を紹介する博物館も人気の観光スポットとなっています。
現代のフィラデルフィアは、医療・教育・金融・文化の中心都市として発展しています。世界的に評価されるペンシルベニア大学やドレクセル大学などの高等教育機関が集まり、アメリカ有数の研究都市としても知られています。また、美術館の大階段は映画『ロッキー』の名場面の舞台となり、多くの観光客が主人公になった気分で階段を駆け上がっています。名物料理「フィリーチーズステーキ」も訪れたら味わいたい一品です。
ニューヨークからは鉄道で約1時間半、首都ワシントンD.C.からも約2時間とアクセスが良く、アメリカ東海岸旅行では欠かせない都市の一つです。独立宣言と合衆国憲法という二つの歴史的文書が生まれたフィラデルフィアは、まさに「アメリカ民主主義発祥の地」であり、「自由のゆりかご(Birthplace of American Democracy)」と呼ばれるにふさわしい都市です。街を歩けば、250年前に建国の父たちが議論を交わした空気を今も感じることができ、アメリカという国の原点を体感できる貴重な場所となっています。
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