「フランス人が切り開いた北米」 第5回 ミシシッピ川を下ったラ・サール ― 「ルイジアナ」の誕生

17世紀後半、フランス人探検家たちの関心は、五大湖からさらに南へと向かっていました。その目的は、広大なミシシッピ川の全貌を明らかにし、その流域をフランスの勢力圏に組み込むことでした。この壮大な挑戦を成し遂げた人物が、ロベール・カブリエ・ド・ラ・サールです。彼はミシシッピ川を河口まで踏破し、その流域を「ルイジアナ」と命名しました。この出来事は、北米におけるフランス植民地の歴史を大きく変える転機となりました。
ラ・サールは1643年、フランス北部のルーアンに生まれました。若い頃はイエズス会に所属していましたが、やがて探検家としての道を選び、1667年にヌーベル・フランスへ渡ります。当時のフランスでは、五大湖のさらに西には豊かな土地が広がり、大河をたどれば太平洋、あるいは中国へ至る道が開けるのではないかという期待が残されていました。
ラ・サールはまず五大湖周辺の探検を進め、1679年には五大湖初の本格的な帆船「ル・グリフォン号」を建造します。この船はエリー湖、ヒューロン湖、ミシガン湖を航海し、毛皮交易の新しいルートを開くために活躍しました。しかし帰路、積み荷を載せたまま消息を絶ち、現在でも五大湖最大級の海難ミステリーの一つとして語り継がれています。
1682年1月、ラ・サールは約50人の探検隊を率いてイリノイ川を下り、ミシシッピ川へ入りました。一行はカヌーで南へ進みながら、広大な森林、湿地帯、草原を通過し、多くの先住民族と出会います。イリノイ族、クアポー族などとの交流を重ねながら、およそ3か月にわたる航海を続けました。
そして1682年4月9日、探検隊はついにミシシッピ川河口へ到達します。目の前には広大なメキシコ湾が広がっていました。この瞬間、ラ・サールはミシシッピ川流域一帯をフランス国王ルイ14世に献上し、「ルイジアナ(Louisiane)」と名付けます。この名前は、偉大な「太陽王」ルイ14世にちなむものでした。
当時のルイジアナは、現在のルイジアナ州だけを指すものではありません。ミシシッピ川流域全体を意味し、現在のルイジアナ州、ミシシッピ州、アーカンソー州、ミズーリ州、アイオワ州、イリノイ州、さらにオクラホマ州、カンザス州、ネブラスカ州、サウスダコタ州、モンタナ州の一部まで含む、広大な地域でした。フランスは、川という交通網を利用して、この広大な領域を一つの植民地として結び付けようとしたのです。
しかし、領有を宣言しただけでは植民地は維持できません。ラ・サールは1684年、新たな入植団を率いて再び北米へ向かいます。ところが航海中の誤算で目的地のミシシッピ川河口を通り過ぎ、現在のテキサス州沿岸へ上陸してしまいました。補給不足や病気、隊員同士の対立が続き、1687年、ラ・サールは反乱を起こした部下によって殺害されるという悲劇的な最期を迎えます。享年43歳でした。
ラ・サールの植民計画は失敗に終わりましたが、彼が明らかにしたミシシッピ川流域は、その後のフランス植民地政策の柱となります。1718年にはジャン=バティスト・ル・モワン・ド・ビアンヴィルによってニューオーリンズが建設され、ルイジアナ植民地の中心都市へと発展しました。現在もフレンチ・クォーター(フランス街)には、フランス統治時代の街並みや文化が色濃く残されています。
また、ミシシッピ川は単なる川ではなく、「北米の大動脈」として歴史を動かしました。毛皮、木材、農産物、人々がこの川を行き交い、後にはアメリカ合衆国の発展を支える重要な物流路となります。ラ・サールの探検は、その価値を最初に世界へ示した出来事でもありました。
現在、ラ・サールの名は各地に残されています。テキサス州のラ・サール郡、イリノイ州のラ・サール市、モントリオールの記念碑などがその代表です。また、ニューオーリンズではフランス植民地時代の歴史を学べる博物館や歴史地区が整備され、多くの旅行者を魅了しています。
ラ・サールは黄金を見つけたわけではありません。しかし、一本の大河が北米大陸を南北に結ぶことを証明し、広大な流域を「ルイジアナ」と名付けた彼の功績は、その後の北米史に計り知れない影響を与えました。探検家たちが切り開いた水路は、やがてフランス、スペイン、イギリス、そしてアメリカ合衆国が覇権を争う歴史の舞台となっていくのです。
次回予告
次回は「フレンチ・インディアン戦争 ― ヌーベル・フランス最後の日」をお届けします。イギリスとフランスが北米の覇権を争った戦争、ケベックの戦い、そしてヌーベル・フランスが終焉を迎えるまでの歴史をたどります。
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