アイソトープ(同位体)



同位体と聞いてピンと来る方は原子物理学の知識のある方です。ラジオアイソトープ(放射性同位体)製造の元となるサイクロトロンを開発した仁科芳雄(にしな よしお)博士の誕生日が明治23年(1890)12月6日なのを記念して、同日がラジオアイソトープの日となっています。サイクロトロンは現代医療や科学分析に欠かせない装置で、仁科博士は日本に量子力学の拠点を作ることに尽くされ、宇宙線関係・加速器関係の研究で業績をあげられた日本の「現代物理学の父」といえる方です。現代からすると明治時代にすでにそういう未来を描いておられたということに驚きます。
ラジオアイソトープとは放射性同位体(放射性同位元素)のことで、ある元素が持つ同位体のうち、原子核が不安定であるために、原子核が崩壊して何らかの放射線を放出する同位体のことと定義され、現在の原子力利用の基本概念です。放射性同位体の前にまず同位体を知らねばなりません。
同位体 とは同じ原子番号 を持っていても 中性子 数が異なるもので、 放射能を持つ放射性同位体 と安定同位体 (stable isotope) に分類されます。一番構造が簡単な水素でいうと、水素原子は1つの陽子と1つの電子でできています。そこに中性子が1つ加わったのが重水素、2つ加わったのが三重水素です。そこで安定同位体の水素を対比して軽水素ということもあります。重水素をdeuterium、三重水素をtritiumというので、トリチウムの方は原発排水処理問題で有名になってしまいました。自然界ではほとんどが軽水素(99.985%)で重水素や三重水素はごくわずかですが、存在します。いつも思うのですが、どうやって測定したのでしょうね。当然ですが推計でしょう。
放射性同位体は電気的に不安定なので時間とともに原子核が崩壊し安定化していきます。その時に中性子が出て放射線を放出します。乱暴な説明ですが、それが原子力エネルギーなのです。放射性同位体は理論的には安定同位体よりも種類数は多いのですが、実際に存在するのはわずかなので、実験するためには人工的に作らねばなりません。そこでサイクロトロンのような装置を用いるわけです。
放射性同位体には三重水素の他、炭素14、カリウム40、ヨウ素131、プルトニウム239などが医療・農業・工業など幅広い分野で利用されています。原子力利用は発電だけではないことも知っておきたいです。とくに非破壊検査、がん治療などは重要な産業であり、火災報知器にも使われているそうです。炭素の同位体は崩壊時間が長いことを利用して古代の年代測定に利用されています。何万年前のことが推定できるのも放射性同位体の利用技術のおかげです。最近では物質の特定など犯罪捜査にも利用されています。想像しているより身近な技術に進化しました。

同位体

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