楽天と厭世
楽天家というのは楽天市場の利用者のことでないことはもちろんです。英語でオプチミストと言い、反対語はペシミストです。ペシミストの訳語は厭世家です。厭世的というのは今ではあまり言われなくなり、否定的な意味が強いですが、古来はけっこう好まれていました。厭世の類語に遁世というのがあり、世捨て人という表現もありました。世間に背を向けた孤独の生き方がカッコイイと評価されていたのです。有名人としては菅原道真、兼好法師、鴨長明、西行などの古典文学作者、近代では太宰治、夏目漱石などが挙げられます。漱石の評価には異論があるかもしれません。厭世家には自殺という結果がつきまとうので、どうしても否定的な評価になってしまいがちです。
哲学者としては、ショウペンハウエル、フロイト、ニーチェなどが有名です。私見ですが、ニーチェは悲観論ではありますが、それほど厭世主義的かどうかは疑問があります。「ツァラトゥストラはかく語りき」などを読むかぎり、反キリスト教的でありキリスト教国では否定的にとらえられると思いますが、仏教的な立場からするとむしろ肯定的な側面が読み取れます。もちろん異論もあると思いますので、まずは読んでみてください。ちなみにツァラトゥストラとはゾロアスターにことで、極めて宗教的な作品ですが、日本では文学としてよりも交響誌音楽として有名だと思います。
太宰治も読み方によっては生きることの大切さを説いているとも解釈できると思います。破天荒な私生活と結果から否定的な見方をされがちですが、自殺を思う人には共感があって参考になるとお勧めになっている人も見かけますから、悲観論も悪い面だけではないと思います。
現代はプラス思考、積極的姿勢、前向き、上昇志向など肯定的価値観がもてはやされる社会です。その反面、マイナス思考、消極的、後ろ向きなどの否定的価値観をもつことはいけないこと、という評価になります。こうした価値観は人により異なるものですし、相対的な行動なので、普通に積極的な人でも、周囲がもっと積極的な人ばかりの集団では消極的とみられがちです。そして積極的な集団は競争や闘争を好みます。その結果、競争巧者や闘争力が強い人が勝者となり賞賛されることになります。勝者がいれば敗者がでるのが道理ですから、元々上昇志向の強い人の敗北感は普通よりも強くなります。そもそも上昇志向の人は敗者を排除する思想ですから、自らが敗者となることは自己否定になります。そういう人が増えているのが現代社会です。この思想的偏りは是正すべきでしょう。
この思考方法の欠点は勝利を絶対視することであり、勝負は時の運と悟って、相対的な価値観であることを知れば敗北感も減ります。それを楽天的と呼ぶかどうかは微妙です。楽天家は自分は絶対に負けないと信じている人の方が多いと思います。同様に厭世は悪だと考えることも再考してみる必要があると思っています。
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