226事件
2月26日はあの226事件の日です。この日になるとなぜか五代目柳家小さん師匠のことを思いだします。たぶんインタビュー番組か高座のマクラなのかだったという曖昧な記憶ですが、師匠はまだ前座だった頃、徴兵になり入隊後1か月で配属された歩兵連隊が226事件の出動で反乱軍になってしまったという話をされていました。夜明けに叩き起こされて出兵になり、訳も分からないうちに反乱軍にされてしまい、挙句に満州に転属になって、その後苦労された、という話です。1兵卒というのはそういうものなのだ、と妙に納得した反面そうした若いうちの苦労があって、あの飄々とした語り口ができたのだという理解もできました。
226事件については解説がいろいろ出ていますから、そちらを読んでいただくとして、これは現在から見ると最後のクーデターと位置付けることができると思います。クーデターと似たような表現に革命がありますが、違いは行動の背景に思想があるかどうかのようです。その意味だと226事件を起こした青年将校には思想もあったので革命といえなくもないのですが、どうもここでいう思想とは共産主義のような思想のことを指すようです。クーデターはフランス語のCoup d’Etatからきた外来語で英語でもそう呼んでいますが発音は若干違います。意味はcoupが一撃、d’=deでofに相当する前置詞、etatはstateと同じ意味で国家です。直訳すると国家(へ)の一撃となり、武力的な反乱を意味します。英語で革命はrevolution 反乱はrebellionといい、はっきり区別されています。Wikipediaによれば「革命はイデオロギーの抜本的な改革を行い、政治権力や社会制度などの体制そのものの変革を目的とする。反乱は政治的な暴力の行使であり、より保守的な政治性を持ち政治的支配の変更を達成するために行われる。対してクーデターでは支配階級内部での権力移動の中で、既存の支配勢力の一部が非合法的な武力行使によって政権を奪うこと」となっています。要するに武力で体制を変更しようとする点は同じですが、変えようとする体制の規模の違いのようです。Revolveはあの回転式拳銃のリボルバーからわかるようにひっくり返すこと、rebelは謀反とか戦争のことです。そのどちらでもないので英語でも政治用語としてクーデターを借用しています。ちなみに226事件は英語では226 incidentsと訳されているようで、単なる事件扱いです。説明としてattempted coup, military revoltとなっているので、クーデター未遂または軍事暴動となっています。
つまり日本的には大事件ですが、外国の視点からすると小さなよくある事件という扱いです。外国はこの程度のことは日常茶飯事ということでもあります。日本では歴史上、いくつかの反乱事件があり、古くは壬申の乱、承久の乱、本能寺の変、などそれなりにあるのですが、完全に政権が交替したのは承久の乱による幕府政権と戊辰戦争による明治維新くらいです。2千年もある歴史の中でこれだけしか武力による目立った政権交代がない、というのも世界的に珍しいといえます。日本人はこうした感覚に慣れているため、外国で頻繁に闘争があり戦争があることがよく理解できず、平和が当たり前で、話し合えば戦争はないと考える人がかなりいます。日本人的感覚だと平和と平和の間に戦争がある、という感覚ですが、外国では逆で戦争と戦争の間にあるのが平和と考えます。つまり戦争は必ず起こるもので、それを外交努力でできるだけ阻止し、起こるにしても自国に有利になるような展開を考えます。「争いは常にあるもの」という想定で危機管理をします。小さい諍いのうちに終息させ大きな闘争にならないように尽力することになります。そのため言語による闘争や情報戦が重要な訳です。こういう諸外国と外交する場合の日本人は心構えをそれなりにして相手の考えを正確にとらえるようにしないとうまくいきません。
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