防災と標語
3月29日は旧暦2月27日で安政の大地震(1858)があった日です。偶然なのか、春に地震や災害が多いのは気候が暖かくなって地球に影響を与えるのか、反対に地殻の変動が気候に反映されるせいなのか、科学的には説明できないのですが、偶然にしては確率が高いような気がします。
地震のような災害は事前に予測して防ぐことは困難ですから、災害が起きた時の被害をできるだけ少なくしようということが減災の考えです。一般には防災といいますが、減災でも意味は同じなので、本当は減被害とかless damageという方が合っているでしょう。それはともなく、防災には標語がよく使われます。「つなみてんでんこ」は福島の大震災で知られるようになりましたが、こうした標語はほとんどが七五調で作られています。日本人には七五調が覚えやすいのです。なぜかを考えてみましょう。七五調は四拍子だということをごぞんじでしょうか。たとえば俳句を音楽的なリズムとして分析すると「ふるいけや(八分休符、四分休符)かわずとびこむ(八分休符)みずのおと(八分休符、四分休符)」となります。字で書くとわかりにくいのですが、それぞれの俳句の文字を八分音符とし、休符を仮に点で示すと「ふるいけや・・・」となり八分音符5個、八分休符3個分で合計8個分のリズムつまり四拍子になります。同じく「かわずとびこむ・」は8個分、「みずのおと・・・」も8個分で四拍子の小節が3つあると考えられます。普段俳句や和歌を朗読する場合に休止符は意識しませんが、自然に余韻のような感じで空間を開けていませんか?これは誰に習ったのでしょうか。そうです、小さい頃から長い間、聞いているうちに自然に覚えたリズムです。これがリズムの言語習得なのです。
実は言語ごとにこのリズムパターンが異なります。英語は強いて分類すれば八分の六拍子、ワルツのような三拍子の言語です。日本の歌は圧倒的に四拍子が多く、英語の歌の子供向けの歌は三拍子が多いのです。そのせいで、明治の頃流行った洋楽は三拍子のものが多く、当時の人にはこれまで聞いたことのない近代的な感じがしたのだと思われます。四拍子の歌は今でも日本で多く歌われており、日本人にはなじみのあるリズムなのです。つまり七五調の文は日本人の心にストンと落ちやすく、覚えやすいということです。
四拍子になれた日本人が外国語の歌を歌おうとすると何となく違和感があり、また一拍に込める音の量が違うため、洋楽をカラオケで歌うとどうしても歌詞が余ってしまいます。それで英語の歌の場合、語尾の子音などを省略することになり、時には単語ごとすっ飛ばして歌うことになります。こうして長さを調整して帳尻を合わせているわけです。
日本人が英語や外国語が上手く聞き取れない最大の原因はこのリズム感にあります。逆に言うと英語のリズム感が得られれば聞き取りが上手になります。歌手が英語を早く習得できるのはリズム感がいいからです。いろいろなリズムに対応できる能力が高いのです。
言語のリズム感は小さい頃から寝物語や読み聞かせを聞くことで得られます。最近は親が子に寝物語を聞かせることも減っているようですが、こうして得たリズム感は脳の奥深くに記憶されるので、そのリズムを聞くとほっこりした安堵感が得られます。同じように朗読にはこうした安堵感があり、近年は朗読会やオーディオ・ブックが流行っています。女スパイがベッドでターゲットの要人の耳元で囁くことでマインドコントロールするというのが映画の定番ですが、催眠術や演説などもこのリズムによる言語効果を活用しています。反対にお経のような単純なリズムの繰り返しで意味不明な語が羅列されると電車のガタンゴトンと同じ催眠効果が得られます。子守歌も同じで心臓の鼓動のリズムをゆっくりにすることで眠りを誘うわけです。「羊が一匹…」も同じ理由です。
標語は四拍子のリズムで作ることで記憶に残りやすくなるという原理を使っています。
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