言語の力
言霊(ことだま)というと何か超科学的な迷信の世界と思われますが、言語には目に見えない、人の心を動かす力があることは誰もが実感し、実際に活用されています。言語学の大元は魔法の術であり、今では文法grammarと魅力のglamourは別語ですが、語源的には「人を惑わすもの」魔法と同じ意味をもっていました。実際、英語のような語学を学ぶ時、文法の意味がわからず、挫折した人も多いと思いますが、いくら説明されても、なぜなのか納得できなかった人が多かったと思います。そして今でも、言語の構造つまりしくみについての解明は進んでいても、なぜそうなのかという説明が十分にできていません。似たような例として、生命の進化という問題があり、進化過程の説明は解剖学や化石などで説明できますが、環境に適応したという説明以外になぜかを説明できていません。実際、環境適応とは一致しない進化もあります。
人の心を動かすには、広告などを見ればわかるように、画像や音楽などもありますが、言語表現が多く使われます。画像や音楽は言語表現を強調する効果はありますが、主たる要因は言語表現である場合がほとんどです。専門的には言語的verbalと非言語的non-verbalなコミュニケーション方法があり、画像や服装などの視覚的情報、音楽などの聴覚的情報、距離や位置などの物理的情報を非言語情報として利用することはありますが、やはり言語情報の力が大きいといえます。とくに人間の記憶に残るのは言語表現が多く、広告のキャッチ・フレーズはその力を利用しています。歌のように繰り返し歌うことで歌詞が記憶に残ります。人の識別も名前という言語情報によって記憶されているので、顔は見たような記憶があっても名前が思い出せないという状態になると非常に不安を感じるようになります。言語情報には音による情報、文字による情報などがあり、さらに数学記号のような人工言語による情報もあります。
現実世界はそのまま相手に伝えることは難しいので、言語情報という記号化によって現実の一部を切り取って情報化し、それを音声や文字、最近はデジタル情報として記憶され、コード化、解読の過程を経て遠方や時空を乗り越えて伝達されていきます。近年は情報の加工が容易になり、偽情報も氾濫するようになりましたが、昔から、切り取りの記号化の段階で本来の姿をそのまま伝えてはいないことが多くありました。その典型が歴史書です。歴史書は作者の意図で事実を切り取っているので、必ずしも事実がそのまま記述されているとはかぎりません。そこでいろいろな歴史書を比較し、物的証拠と比定して事実に迫るということが行われます。
近年は政治や軍事の世界で、最初から誤情報を作成し流布するという行為が行われます。いわゆるプロパガンダというものです。これは偽であっても創作や加工が巧妙のため、本物とは区別できないことが多いのですが、人々の心が動かされやすいので、言語の力を再認識します。
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