「なぜ」を問うてみよう 4
日本人は「なぜ?」を問うことが少ない、といわれるのですが、少ない、というより、次々にたたみかけて質問することが少ないのだと思われます。「なぜ?」と訊いて、「〇〇だから」と答えられると、それで満足してしまったり、諦めてしまう性質があるのだろうと思われます。現実には、それほど単純なことで済むことはほぼなく、複雑な原因や要因があり、それらが絡み合っているのですが、日本の文化では、深く追求しないのが美であるような側面があります。よく「武士の情け」という表現でごまかすことがあります。この前提条件として、相手も自分も武士だからこそ成立する理屈ですが、あたかも自分が武士であるかのような見せかけで、それ以上追求するだけの能力と材料がない場合の自己正当化といえます。とくに政治的な場面で多用される傾向があり、政治家がいつから武士になったのだ、と訊いてみたくなります。また議会の質疑応答や政治家の記者会見における記者の質問にも同じ傾向が見られます。
最近目立つのは「イエスかノーでお答えください」というのがあります。それに対して、イエスもノーも言わないという答弁をよく見ます。これは質問のしかたが悪いので、ものごとはすべてイエスかノーの二項対立でできてはいない、という事実を理解していないのです。とくに「なぜ?」という質問の答えは肯否できません。肯定か否定かの回答を求めるのを肯否疑問文、疑問詞による疑問文を疑問詞疑問文といい、英語では5W1Hと呼ばれるタイプです。日本語にも疑問詞はあり、「なぜ?」はその1つです。疑問詞疑問文に対する回答は肯否ではなく、具体的な事柄で回答します。「なぜ?」の場合は理由、原因、動機などです。そこで「なぜあなたはあの人からお金をもらったのですか?」と政治家に尋ねれば、もし貰ってなければ、「貰っていません」と答えるか、事実を述べるか、ごまかすか、の3種類の回答が出ます。結果として、後の2種類は貰ったということを肯定していることになります。
同じ論理で、「いくら」「いつ」「どこで」「どうやって」と尋ねていくことで事実に迫れます。これはテレビドラマなどで犯人を追及する刑事がする手口です。犯人の自白が簡単でない場合や証拠が乏しい場合には必ず「動機」が重要になります。「なぜ?」という質問は動機解明の質問です。子供に対しても同じ手法が用いられます。「太郎ちゃん、どうして花子ちゃんをぶったりしたの?」と訊いて、「だって、花子ちゃんが僕のおもちゃをとったから」と答えがあれば、ぶったことは確かです。日本的にはそこで「ぶっちゃいけないの」という諭す結論になりがちですが、もう1回たたみかけて、「なぜ、花子ちゃんはあなたのおもちゃをとったの?」と質問してみます。そこで太郎ちゃんは花子ちゃんの気持ちになる、つまり主観から客観への転換が行われ、子供は学習することになります。「なぜ?」の反復は動機確認だけでなく、事実確認でもあり、探究への段階です。哲学だけでなく、学問は「なぜ?」を反復することで、より深い探究の道を進むことになります。これはどの世界にも通用する普遍的原理だと思います。
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