十三夜



今年は10月15日が旧暦長月13日なので、今夜の月が「十三夜」になります。秋の夜長、澄んだ空に浮かぶ月は、古来より日本人の心を捉えてきました。その中でも「十三夜」は特別な意味を持ち、十五夜の満月とは異なる趣を楽しむことができます。この夜は「後の月」とも呼ばれ、十五夜の「中秋の名月」に次ぐ美しい月夜とされています。十五夜が満月であるのに対し、十三夜は少し欠けた月で、その微妙な形が一層の風情を醸し出します。この「少し欠けた」ということに風情を感じるのは日本独特だと思われます。その情緒を楽しむ、十三夜の美しさを詠んだ俳句や和歌は数多く存在します。例えば、松尾芭蕉の俳句には次のようなものがあります。「名月や池をめぐりて夜もすがら」。この句は、名月の夜に池の周りを歩きながら、その美しさに心を奪われる様子を描いています。十五夜の満月を楽しんだ、という解釈も可能ですが、芭蕉の心情から、その名残り惜しさ、もののあはれを考えると十三夜ではないかという解釈もできると思われます。和歌では藤原定家の「秋の夜の月の光に照らされて心の闇も晴れ渡るかな」が知られています。この歌は、秋の月光が心の闇をも照らし出し、心が晴れやかになる様子を表現しています。これも現代的には満月に照らされる方がわかりやすいかもしれませんが、平安時代であることを考えると、十三夜の月の方がぴったりくる、と思われます。十三夜の風習としては、満月の月見と同様に、月見団子や栗、枝豆などを供えて月を愛でる風習があります。これらの供物は、豊作を祈る意味も込められています。特に栗を供えることから「栗名月」とも呼ばれることもあります。十三夜の月は、その欠けた形がどこか儚げで、見る者の心に深い感慨を呼び起こします。恋人同士が手を取り合い、静かな夜に月を見上げる姿は、まさにロマンチックそのものです。月の光に照らされた風景は、日常の喧騒を忘れさせ、二人の時間を特別なものにしてくれます。戦前の歌謡曲ですが、「十三夜」という歌があります。昭和18年に榎本美佐江さんが歌ったヒット曲です。石松秋二作詞、長津義司作曲です。「河岸の柳の、行きずりに、ふと見合わせる、顔と顔、立止まり、懐かしいやら、嬉しやら、青い月夜の、十三夜」という歌詞は、秋の夜長に浮かぶ十三夜の月を背景に、切ない恋心を描いています。この一節は、河岸に立つ柳の木の下での出会いを描いており、情緒豊かな風景が目に浮かびます。この曲は、戦時中の日本で多くの人々に愛され、今でも懐かしさを感じさせる名曲として知られています。YouTubeでもこの曲を聴くことができますから、月を見ながら、一度聞いてみてください。このように、「十三夜」は日本の歌謡史に残る名曲であり、その美しいメロディと詩情豊かな歌詞は、今も多くの人々の心に響いています。現代においても、十三夜の月見は続いています。都会の喧騒を離れ、静かな場所で月を眺めることで、心の安らぎを得ることができます。スマートフォンやカメラで月を撮影し、その美しさを共有することも一つの楽しみ方です。

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