言語技能測定技術と言語教育理論④ 理解語彙と使用語彙
手話技能検定試験のレベルの設定において、「理解語彙と使用語彙」という概念を用いています。たとえば、大阪地方に住んでいる人は普段、「大阪弁」を「使用」します。東京地方に住んでいる人は普段、「大阪弁」は「使用」しませんが、「大阪弁」はほぼわかります。この例でわかるように、人は自分の使う語の何倍もの語が理解できます。そこで自分の使う語群を「使用語彙」、理解できる語群を「理解語彙」と呼びます。母語話者は使用語彙の何十倍もの理解語彙をもっているといわれています。無論、経験や学習による個人差があります。では外国語に対してはどうでしょうか。英語を習い始めた頃、使用語彙と理解語彙はほぼ同じです。「学習が進むにつれて、理解語彙は増えていきますが、使用語彙は急激には増えません」。次第にその差が広がっていきます。この原理を手話学習に応用すると、学習初期段階では理解語彙も多くないので、試験もしやすい状態です。学習者も基本的な語彙学習をしているので、基本的な語彙の習熟度を測定すればよいことになります。問題は「理解度」をどのように測定するか、です。たとえば、手話表現を見せて、その日本語の意味をたずねる、という方法がもっとも単純です。手話教室では、こういうテストが簡単です。しかし、実際には、初学者は「ああ、習ったことがある」とか「似たような語と間違う」などの現象があり、正解が確実に出るとはかぎりません。そこまで完璧な理解でなくても、ヒントでわかるだけでも学習効果があった、と考えるとハードルが下がります。手話検定では、4つの回答を例示し、それをヒントとして正解を得る、という方法を採用しています。選択肢の提示には技術が必要で、ある程度紛らわしい選択肢も提示すると難度が上がります。「紛らわしい」場合にも、「形が似ている」、「意味が似ている」など、いろいろな場合があり、それらをうまく組み合わせることで、理解度を測定することができます。設問方法も1種類でなく、いろいろな工夫が必要になります。これらの理解度測定技術は、いろいろな言語のテスト方法が開発されているので、それらが参考になります。詳細の説明はここではしませんが、実際に受験されると、その技法の意味がわかります。設問によって、難易度に差があるので、そこで、「正答の重みづけ」をすることで、より精密な理解度測定ができます。易しい設問には低い点、難しい設問には高い点を配点します。配点は非公開です。理由は、受験対策に利用されるためです。入学試験などの受験対策では、配点の高い問題で稼ぐ技法を指導します。限られた時間内での回答には、「効率のよい」得点が必要になるからです。実際、入試問題などでは、配点が明示されている場合も多く見られます。手話検定では、そうした受験技術による合格よりも、実力の測定を重視しているため、配点を非公開にしています。しかし、設問は50問、満点は100点、合格点は80点であることを公開しています。合格率は非公開ですが、毎回、変動があるものの、6級では90%近く、5級では80%以上といった、徐々に合格率が下がっているのが現状です。
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