手話の雑学21


手話で話す女性のイラスト

学校教育を終えた子供たちは社会へと出ていきます。聾教育の場合、義務教育である中等部をでると、高等部へ進学するか、普通高校に進学するかの選択になります。さらに進学する場合は筑波科学技術大学か、一般の大学に進学するしか選択肢がありません。つまり上に行くにつれて選択の幅は狭まり、その分、一般社会つまり健聴者の社会に参加していくことになります。当然、そこに「言語の壁」があります。仮に「手話を完全に習得」していても、教育は国語でなされますから、日本語ができないと教育を受けることがほぼ不可能です。これを「差別だ」として騒いでみても、現実が変わるわけではありません。筑波技術大学では積極的に手話を採り入れていますが、聾学校高等部卒業生が全員進学できるわけではありません。定員もあり、遠隔地に進学するには経済の問題もあります。そして、日本では大学進学は学問をすることよりも、就職のためという目的がほとんどなので、当然、同大学卒業後の就職先の問題が出てきます。

就職という問題は、大学に進学せず、高等部を終了した段階で出てきます。そのため高等部では、技術指導に力点を置いて、「聾者の仕事」といわれる特定の技能研修が行われてきました。昔は、理容、木工、印刷が多かったため、手話の<仕事>は印刷の時の紙を揃える仕草が語源となっています。一部の聾者はハサミと櫛で髪を刈る仕草、あるいはノミを金槌で叩く仕草で<仕事>を表すこともあります。近代になると、歯科技工や写真、絵画などに職業の可能性を見出す人もいて、それぞれの<仕事>の手話表現は異なります。また離島などで教育の機会がなかった、いわゆる「未就学者」は農業、漁業などの第1次産業に従事することが多く、たとえば沖縄・奄美地方では、サトウキビ栽培や機織りに従事する場合もあり、それらの地域では<仕事>の手話は<刈る>であったり<機織り>である場合もあります。第1次産業従事者の場合、ほぼ能力給なので、健聴者の労働者との経済格差は少なく、差別も少なかったということのようで、産業が高度化するにつれ、経済格差と差別が大きくなった、という社会現象があります。

産業が高度化すると、聾者にはどうしても、手話通訳が必要になってきます。手話通訳は現在でも「日本語を手話にする」ことが仕事であり、特別な事情がないかぎり「手話を日本語にする」ことはあまりありません。通常、これを「手話の読み取り」といい、手話通訳の世界では高度な技能になっています。その傾向は今も続いており、「手話辞典」というのは「日本語の見出しで手話を検索」するものです。いわば「英和辞典」です。「和英辞典」に相当する「手話日本語辞典」はないことはないのですが、きわめて少数です。どうしてこういう不均等が起こるかというと、言語間の力関係があるからです。英語と日本語では、圧倒的に英語の力が強いです。そのため、日本人は「英語を学ぶ」ことが当たり前であり、義務教育でも英語を学びます。だから英和辞典は必須です。そして解釈のための英文法学習も必須です。昔は、英文解釈と英文法、今はそれに英会話が入っています。

2025年9月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

コメントを残す