手話の雑学66


手話で話す女性のイラスト

英語に限らず、ヨーロッパの言語はほぼ同じような文型による分類が可能です。それは印欧語族という同じ語族に属するからです。しかし、他の語族はなかなかこうした文型にまとめることはむずかしいです。まして、日本語のように、どの語族なのかが確定していない言語では、なおさら困難です。実際、もしあなたが「挨拶などを除いて、基本的な例文を挙げてください」といわれると困りませんか?なんとなく「私は〇〇です」とか「これは△△です」のような例文が浮ぶかもしれませんが、これは英語の基本例文の影響でしょう。しかし「~は~です」というのが基本であるような感じがするかもしれません。しかし、この例文パターンは他の言語にはなかなか訳しにくいものです。言語学では有名な例文として、「象は鼻が長い」というのがありますが、「は」「が」がともに「主語を表す」ので、主語が2つあるような感じがして困るのです。この「は」と「が」の問題は言語学的には一応解決しているのですが、その説明はかなり難しいものです。日本人なら「僕はうなぎだ」と「僕がうなぎだ」という文の意味の違いもわかりますが、外国人にはなかなか解釈できない例文です。英語に直訳して、I am an eel。は異様な文です。もし正確に訳すなら、前者はI take Unagi. 後者はIt’s me. I ordered Unagi. というような意訳をする必要があります。では手話ではどうなるか、というと、「うなぎ」「私」あるいは「私」「うなぎ」でよさそうです。文法を比較すると、日本語と日本手話はこの点ではよく似ています。このように似ている面があるかと思えば、日本語とはまったく異なる文法もあります。とくに違いが顕著なのが、品詞です。日本手話の「雨」は、日本語から見ると、名詞の「雨」のこともあれば、「雨が降る」の意味の動詞にもなります。ここが「手話には品詞がない」という誤解の根源です。日本手話の動詞のほとんどには内蔵項があり、音声言語の文に似た構造をしている、という特徴があります。音声言語では、語が集まって句を作り、句が集まって文を作る、という構造が基本ですが、手話では、語が文のような構造になっており、語より小さな単位である形態素が語のような役割をしている、という一段深いレベルでの分析が必要です。品詞というのは文における語の文法機能ですから、同じものを手話に求めるならば、「形態素の語における文法機能」を求めることになります。日本手話の「雨」の表現は、両手の指先が雨粒を表し、下に動くことで、「雨が降る」を意味します。つまり動詞なのです。ちなみに英語のrainも動詞が基本です。一英語の天候は動詞で、thunder(雷)、 snow(雪)なども動詞なのですが、日本人は名詞のように解釈しがちです。さらに一般化すると、日本語は名詞中心的な理解で、欧米の言語は動詞中心的な理解です。日本手話は動詞中心的な理解の言語ですから、日本語と単純対比すると間違いが起こりやすいです。日本手話の「雨、雷、雪など」の天候を表す語は動きがあり、動詞と考えるのが妥当でしょう。動きがあれば必ず動詞ということはいえませんが、その動きに意味があれば、動詞といえます。

2025年11月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

コメントを残す