手話の雑学104


手話で話す女性のイラスト

次のチャールズ・サンダース・パースはアメリカ合衆国の哲学者・論理学者です。19世紀後半の人で、いわゆるアメリカ・プラグマティズムの創始者の一人です。時代も場所も、ランガーやカッシーラより一世代以上前になります。ランガーとカッシーラのような直接の師弟・人的ネットワークは、パースにはありません。カッシーラは、パースの記号論(とくに三項関係やアイコン概念)を、自分の「象徴形式の哲学」に理論的に取り込んだ側です。カッシーラはパースの弟子ではありませんし、個人的な交流記録もありません。人間関係の比喩で言うなら、

・パース:孤高の発明家。道具は作ったが、使い方は後世に委ねた
・カッシーラ:その道具を見つけ、文明全体を説明する理論に組み上げた建築家
・ランガー:その建築を、人間の感情や芸術が住める空間へ改装した人

という感じです。ランガーに至ってはさらに一段階パースからは遠くなりますが、思想的継承がパース→カッシーラ→ランガーという間接継承になります。ランガー自身は、パースよりもカッシーラから受け取った問題設定を、自分の関心(芸術・感情・非言語的象徴)へ大胆に展開しました。三人の関係は、「象徴とは何か」をめぐる思考のリレーとして見ることができます。そして同じ象徴を扱っていても、焦点は構造→世界構成→経験の形式と、だんだん人間の内側へ降りてきます。

前置きが長くなりましたが、パースの記号論と手話の関係の説明です。

3.パース記号論と手話の図像性

手話の言語的特徴は視覚的であり、身体表現にあります。この音声言語とは異なる特徴は、言語のメディアに拘らず、記号としての性質に着目すると、手話の言語的特性はより明確になります。この視点は手話の意味論を思考した人々の間では、長く共有されてきました。その際、パースを参考とした学者もいました。

3.1 三項記号論と手話の三層的構造

パースの記号論では、記号は

・記号(representamen)—対象(object)—解釈項(interpretant)

の三者関係として成立する、としています。この構造は、視覚的・身体的表現を前提とする手話にきわめて親和的です。言語学で基本とされるソシュールの記号論は記号が能記と所記が表裏一体である、とする前提とは異なる視点です。手話における指差し、方向性動詞、空間配置などは、それぞれicon―index―symbol の働きを担います。とりわけ手話の語彙は類似(icon)、指標性(index)、慣習(symbol)の三要素が動的に移行する存在であり、パースが示した連続体的理解に適合すると考えられます。

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