手話の雑学114 固有名詞


手話で話す女性のイラスト

アメリカの聾民族主義者がアメリカ手話をASLと固有名詞化したのは、言語や民族、国名は先頭が大文字の固有名詞であることと関係が深いです。ご存じないかもしれませんが、英語で大文字と小文字に分かれたのは7、8世紀のことで、修道士たちが聖書の写本を作成する際に、効率的に書くために新しい文字が生まれたとされています。つまりそれ以前は小文字だけでした。聖書では、今もHe, Lord, Godのようにキリスト教の神は大文字で書きますが、他の宗教の神はgodのように小文字で表します。従ってGodsはなくgodsはありえます。

通常、固有名詞は特定の物にしか与えられないので、単数形のみですが、複数形にすると特別な意味を持ちます。たとえば地球的には月は1つなのでMoonですが、他の惑星には衛星が複数ある場合もあるので、Moonsとするかmoonsとするなどの表記になります。英語のEnglishは現在、Englishesと表記することもよくあり、それは英語がイギリス英語だけでなく、アメリカ英語、オーストラリア英語など世界に英語を国語としている国は100以上あり、また日本英語のような変種もあるので、それらを総称する場合にはEnglishesとなります。最近の例では、SDGsのように最後に小文字のsがついてGoalが複数であることを示しています。他にもTrumpという苗字を複数にしてTrumpsとすると「トランプ一家」になります。この単数と複数の区別は、その区別がない日本語の話者にはピンとこないのですが、英語話者は単数と複数の区別意識は厳密です。

こうした文字上の文法は、大文字による固有名詞の区別、固有名詞の複数化により特別な意味を表しています。手話についていえば、Sign Languageと書くか、sign languagesと書くかで意味が変わり、前者は抽象的な意味、後者は普通名詞でいろいろな手話ということになります。もし「日本手話」を世界の手話と比べて、日本にしかない手話の意味ならばJSLですが、日本国内に方言があり、変種があるという意味ならJSLsあるいはJapanese sign languagesという表記になります。つまり大文字にするか、単数形か複数形かがその扱いというか、表現者の思想を直接反映するわけです。日本語は複数形というのがほとんどないので、手話の前に別の単語をおいて説明することになります。「日本の」「世界の」「京都の」のような説明が必要です。単純に漢語を並べて連語を作ることがよくありますが、解釈が曖昧になります。たとえば「日本手話学会」は「日本の手話学会」なのか「日本手話の学会」なのか不明です。こうした曖昧さに日本人は慣れていますが、外国人にはわかりにくく、手話の場合も困ります。これもいわゆる「日本語対応手話」と呼ばれている手話変種が聾手話の使用者には理解しにくいことの1つです。日本語の場合は上記のように「てにをは」を付けて区別できます。手話ではどうやっているでしょうか。それが手話文法です。手話文法の多くが表情に出ているという主張が時々見られますが、表情でこの区別ができるのでしょうか。

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