「スペイン人が切り開いた北米大陸」 第4回 ミシシッピ川との出会い ― デ・ソト遠征が残したもの

十三夜の月のイラスト

1541年5月、スペイン人探検家エルナンド・デ・ソト率いる一行は、目の前に広がる巨大な川に息をのみました。幅は1キロメートルを超え、ゆったりとした流れは果てしなく続いています。彼らが目にしたこの大河こそ、現在のミシシッピ川でした。もちろん先住民は古くからこの川を生活の中心として利用していましたが、ヨーロッパ人が記録に残したのはこれが初めてとされています。デ・ソト遠征は黄金を求めた旅でしたが、その最大の成果は、北米南東部の姿をヨーロッパに伝えたことでした。

デ・ソトは1500年頃にスペイン西部で生まれ、若くして新世界へ渡りました。中米や南米での探検に参加し、フランシスコ・ピサロによるインカ帝国征服にも加わって莫大な富を得ます。その成功から、「北米にも第二、第三のインカ帝国が存在するはずだ」と信じるようになりました。

1539年、デ・ソトはスペイン王の認可を受け、約600人の兵士、200頭を超える馬、鍛冶職人や司祭、さらには豚の群れまで伴う大遠征隊を率いてキューバを出航します。上陸地点は現在のフロリダ州タンパ湾周辺と考えられています。探検隊はここを拠点に北米内陸部へと歩みを進めました。

遠征隊は現在のフロリダ州からジョージア州、サウスカロライナ州、ノースカロライナ州、テネシー州、アラバマ州へと進みました。行く先々には、それぞれ独自の文化を持つ先住民族が暮らしており、中には数千人規模の集落も存在していました。スペイン人は金銀の在りかを尋ねながら進みましたが、期待した財宝はどこにもありませんでした。

遠征の中でも最大の戦いとなったのが、1540年10月のマビラの戦いです。現在のアラバマ州付近で、先住民の首長タスカルーサが率いる軍勢と激突し、激しい市街戦が繰り広げられました。スペイン軍は勝利したものの、多くの兵士が負傷し、武器や補給品も失いました。この戦いは遠征隊にとって大きな痛手となり、その後の行動にも深刻な影響を与えました。

それでもデ・ソトは探検を続け、1541年5月、ついに巨大なミシシッピ川へ到達します。当時の記録には、「向こう岸が霞んで見えないほど広く、流れは力強く、幾本もの丸木舟が行き交っていた」と記されています。探検隊は大型の船を建造して川を渡り、西岸へ進みました。彼らは現在のアーカンソー州やルイジアナ州付近まで足を延ばしましたが、そこにも黄金の王国はありませんでした。長い探検の末、隊員たちは飢えや病気、疲労に苦しむようになります。そして1542年5月、デ・ソト自身も熱病に倒れ、ミシシッピ川西岸で息を引き取りました。もし彼の死が先住民に知られれば、「不死身」と信じさせていた威信が失われることを恐れた部下たちは、夜陰に紛れて遺体を毛布で包み、ミシシッピ川の深みに沈めたと伝えられています。この劇的な最期は、現在でもアメリカ史を語る上で印象的なエピソードの一つです。

隊長を失った遠征隊はルイス・デ・モスコーソの指揮で西へ向かいましたが、新たな成果は得られませんでした。最終的にはミシシッピ川沿いで船を建造し、メキシコ湾を経て1543年にメキシコへ帰還します。出発時約600人いた探検隊のうち、生還したのは半数ほどだったと考えられています。

デ・ソト遠征は黄金を発見できず、植民地建設にも失敗しました。しかし、その記録には北米南東部の地形や河川、森林、動植物、そして当時栄えていた先住民社会の様子が詳しく残されています。また、この遠征を通じてヨーロッパにはミシシッピ川という巨大な水系の存在が初めて知られることになりました。一方で、探検隊が持ち込んだ天然痘などの感染症は先住民社会に大きな被害をもたらし、その後の歴史にも深い影響を及ぼしたと考えられています。

現在、デ・ソトの足跡はアメリカ各地に残されています。フロリダ州のデ・ソト国立記念碑では上陸を記念する展示が行われ、ミシシッピ川流域には遠征に関する史跡や博物館も点在しています。世界有数の大河を前にした探検隊の驚きは、約500年を経た今も、多くの人々の想像をかき立てています。

デ・ソトは黄金を見つけることはできませんでした。しかし、その遠征は北米南東部の地理を世界へ伝え、ミシシッピ川を歴史の舞台へ登場させました。彼の旅は、征服の物語であると同時に、未知の大陸を知ろうとした人類の探検史の一章でもあったのです。

次回予告

次回は舞台を西海岸へ移し、「十字架が築いた町 ― スペイン伝道所とカリフォルニア開拓」をお届けします。フニペロ・セラ神父が築いた21のミッションは、ロサンゼルスやサンディエゴなど、今日のカリフォルニアの都市の原点となりました。

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