小満
今年は5月20日から二十四節気の小満に入ります。万物の成長する気が次第に長じて天地に満ち始める、ことから小満といわれています。ようやく暑さも加わり、麦の穂が育ち、山野の草木が実をつけ始め、紅花が盛んに咲き乱れます。また梅の実がなり、西日本では、走り梅雨がみられる頃です。田植えの準備を始める頃でもあります。走り梅雨というのは本格的な梅雨に入る前のぐずつく天候のことで、この後晴れた日が続き、その後本格的な梅雨に入ります。梅雨の走り、ともいいます。また古い表現ですが、「卯の花くたし」というのがあります。「くたす」とは「腐らせる」「だめにする」という意味で、卯の花を腐らせてしまうくらいほどの長雨ということです。もう卯の花を見ることも少なくなったので、意味もわからなくなっています。この時期になると蚕(かいこ)が目覚めて桑(くわ)の葉を食べたりするので、養蚕の盛んだった昔には大切な時期でした。今でも続いているのは「麦秋(むぎあき、ばくしゅう)」です。秋に例えたのは稲などの収穫が秋だからで、麦の収穫時期なので麦秋と呼んでいます。一面に黄金色の穂と、青々とした麦が一面に広がる風景は美しいものです。この時期にはアスパラガス、春キャベツ、そらまめ、カボチャなどが出回ってきます。サクランボもこの季節です。この時期に咲く花としては、杜若(かきつばた)があります。水辺に青紫の特徴的な花が咲いているのは美しい情景です。杜若を詠んだ歌は万葉集には7首ありますが、1首を除き作者不明なので庶民の歌でしょう。
1345常ならぬ人国山の秋津野のかきつはたをし夢に見しかも
1361住吉の浅沢小野のかきつはた衣に摺り付け着む日知らずも
1986: 我れのみやかく恋すらむかきつはた丹つらふ妹はいかにかあるらむ
2521: かきつはた丹つらふ君をいささめに思ひ出でつつ嘆きつるかも
2818: かきつはた佐紀沼の菅を笠に縫ひ着む日を待つに年ぞ経にける
3052: かきつはた左紀沢に生ふる菅の根の絶ゆとや君が見えぬこのころ
3921: かきつばた衣に摺り付け大夫の着襲ひ猟する月は来にけり(大伴家持)
麦秋を詠んだ句は昔からあり、今も多く読まれています。古典的な句としては
麦の秋さびしき貌の狂女かな (蕪村)
麦秋や子を負ひながら鰯売り (一茶)
新しいところでは、情景も感覚もかなり変わってきています。
夕日今穂先に乗せて麦の秋(三瀬教世)
麦の秋また麦の秋旅し行く(河野美奇)
太陽が地球を焦がし麦の秋(高橋みゆき)
サクランボやソラマメなど食べながら、一首あるいは一句などいかがでしょう。
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