成人教育2
成人教育の必要性は日本政府が独自に発想したものではなく、実は国連などの国際機関からの勧告によるものです。日本ではリスキリングと言い換えられていますが、本来はリカレント教育といわれているものです。リカレント教育とは、義務教育や基礎教育を終えて社会人となっても、スキルや能力向上、新しいキャリアの選択などの人生の再設計を行い教育機関に戻って学ぶことができる教育システムを指します。これは1970年代に経済協力開発機構(OECD)で取り上げられ、国際的に知られるようになった生涯教育構想です。
日本で大騒ぎしているSDGsにも目標4「質の高い教育をみんなに」がありますが、その1つです。生涯教育とSDGsを結びつけて考えている日本人はほとんどいないと思われます。SDGsの課題の1つが「未だ男女の格差が深刻な地域とその理由」というのがあります。また「初等教育・就学前教育が受けられない子どもたちの現状」というのがありますが、これは開発途上国や特定の宗教が支配する国では未だに解決されていない問題です。一方で成人教育と思われていないのが、防災意識や災害対策の訓練です。教育は学校でするもの、という理解が日本人の常識になっていて、職業訓練も学校でするものという認識です。しかし、大学や専門学校などの公的機関が提供しているフォーマルな教育や訓練に参加している成人は非常に少なく、日本の成人の3%未満であり、OECD平均の8%をはるかに下回って、どのOECD加盟国よりも低いのです。例えばシンガポールでは、高等教育機関に成人向けのコースを提供するよう奨励しています。つまり、これまでの若者向けという枠を超えて提供していくということなのです。一方、日本ではカルチャー講座のように、教養、文化、スポーツ、芸能などの成人教育は割に盛んですが、それはシニア世代のように有閑階級対象と考えられていて、自治体が提供している場合もありますが、自己負担が原則です。
最近必要性が増えてきたITの知識やICT技術も諸外国では成人教育に含まれているのですが、日本は学生向けの職業訓練以外は生涯学習として趣味と同じ扱いになっています。このように実態としては、それなりの成人教育が行われているのですが、「先進国」との違いは公的負担ではなく、個人負担が中心となっていて、政府も掛け声以外の施策をほとんどしません。
大学・大学院レベルの高度な教育となると、完全に自己負担で、奨学金もなければ補助金もありません。欧米の大学にいくと、若い学生に混じって、中年や高齢の学生の姿をよく見かけます。それは若い学生にとっても学ぶことが多く、良い影響を与えています。しかし日本の大学は例外的で社会人入学という制度があっても、無試験で入学できるという特典だけを利用しようとする若者に活用されていることが多く、社会人が大学で学び直すことはスポーツ選手や一部のマスコミ・芸能人以外にはほとんど見られません。それは明らかに就労問題と所得の問題であり、政府が再就職や転職をいくら奨励しても、社会人が対応できないのが現実で、そこを解決することが先決の課題です。
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